嘘つくのは悪いこと?

[heroine side]

あれから空気が重くなった。まさかドロッセルの事が話題としてでるとは思っていなかったし、クレインさんが死んでいることも知らなかった私としても大変複雑としか思えない。
襲いかかる魔物を一掃して見えたカラハ・シャールの街並み、皆はちゃんと自分の立場を理解してくれたのかという疑問があるがもともとアルヴィンとレイアはクレインさんと関係が薄い。ローエンは言葉巧みに何とかやっていけそうなんだけど。

「エリーゼ、ここはあなたにとって偽物の世界。何も悲しむことはないと思うよ。帰ればドロッセルはいるんでしょ?」

エリーゼがずっと黙ったままなのだ。いくらここが分史世界というところであれ、彼女の家族を失ったというのは悲しいことなんだろう。………仲間を失ったという事に関しては私も一緒、かな。
エリーゼは浮かない顔を見せながらも理解したようで「そうですよね……、」頷く。とエルがいきなり私の右手をとってでも…と声を漏らした。

「帰ったらファルス死んじゃうんだよね。エルはやだなーファルスやさしいし」

「なによ、そういうことをするのがルドガーの仕事なんでしょ。時歪の因子をどうにかしなきゃ帰れないし」

「……そうだな、ファルス…ごめん」

気にしないでほしい。そう思った。
ミラの言葉がズバリ正しいのだ。皆がずっとこっちの世界にいるのは両者ともに快く思わないだろう。
私はどうしても過去の仲間と重ねてみてしまうことがあるし、皆にとっては偽りの生活を送ってもらわなければならなくなる。

「ルドガーは優しいんだね。でも優しいだけじゃ駄目だよ。やるべき事は成さなきゃ」

「あのさファルス。ムリにガマンしなくたっていいんだよ?エルもよくガマンするとき笑うけど意外と笑えてないっていわれるし」

別に無理はしてないけどね、口はそう動かした。エルに言われるって事は笑えてないのかもしれない。これでも結構ポーカーフェイスは得意な方だったのだけど。小さなエルの手を握り返して反対の手で何かを気にしたようなエリーゼの頭を撫でた。


「なあ、おたくさ」

話が一段落したと思ったらこれだ。
世界共通背の高いアルヴィンを見上げて何と訊く。
昨日の私に向ける表情よりおだやかだったような気がする。昨日は初対面なのに明らかな敵対するような目で見られていたために素直に驚いてしまった。

「私に、用事?」

「用っつーかなんか自分の記憶じゃない記憶が入ってきたんだけどそれってアンタが俺に何かしたって事だろ?」

一体何をしたと訊く彼に例の[私、思いを伝えるんだ環]を見せた。もともと失声症などの声が出せない人との会話をするために作られたそれは今現在において試作段階ではある。
先程のことだってただ所持しているだけでは何も伝わらなかっただろう。今はリンクをしている相手にしか言葉が伝わらない。1対1のコミュニケーションならともかく普通の対話を試みる私たちにとってはまだまだ研究対象だ。
と、まあ発案者である私が試作品を貰ったのはいいがはっきりいって使い道がなかったからついお蔵入りしていたのだが今回難なく使えた。とりあえずの成果は得られそうです。

「声が出せなくなった人たち向けに発案した[私、思いを伝えるんだ環]よ。実践したのは初めてだったんだけどその様子じゃ伝わってるみたいだね」

「思い…感情のわりには回想シーンっての?鮮明に写り込んでんだけど」

「それだけ私の思いが強かったんじゃないの?私もまだ過程段階だから何ともいえないかな。あ、なんか副作用とか無かった?頭が痛いーとか目眩がするーとか」

「今んとこなし」

そ。ならよかった。と会話が終わる。
アルヴィンは私を見続けるままだ、昨日とは違うちょっとおもしろいものを見ているような目。好奇心うずうずといったような彼は「やっぱちげーな」と笑う、意味わかんない。



「おたくはどっかの誰かさんみたいに裏切ったりしなさそうだわ」



小さな信頼
(え、それは貴方のこと?)

2013.8/25


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