私、思いを伝えるんだ環

[heroine side]

「いくよ、ミラ!」

「「エアリアルファイア!!」」

魔物の群れを撃退し、私たちは一息ついた。

正史世界、という彼らの住んでいる世界でのこの区域の生命体はこれほどまでに凶暴ではないらしい。私にとっては気にするほどのことではないしこれ以上余計なことに頭を悩まされたくないわけでミラと話す。

「ミラとのリンクはなんか落ち着くな」

「なによいきなり。おだてたって何にもでないわよ」

別に何かほしくて言ってるわけじゃないよ。と笑う。ミラの顔真っ赤だし。照れてるの丸わかり。こういう女の子だったらきっと女子力ないって言われないんだろうな。スタイルもほら、うん……出るとこ出て引っ込んでるところ引っ込んでるっていうか。

「なんかやっぱり落ち込むかも」

「あなた私に喧嘩売ってるんでしょ」

そんなことはないんだけどな。ミラの言葉は全世界共通真っ直ぐだし、スタイルも負けるし。どんなことがあっても勝てない相手だよ、本当に。
リンクはなるべくしたくなかったのが本音だったけど、ミラとなら悪くないと思える。自分の気持ちに整理がついていないこの状況を共有してくれるのは昨夜を共に過ごしてくれた彼女だったのだから頼ってしまいたくなる。
頼る、か。結局のところ自分で決めなきゃいけないのに。というかこんなの正解なわけがないか。自分が自分の世界を滅亡させようとしている人たちに荷担しているなんて。

「ダークヒーローもギャフンって言いそう」

ダークヒーローって何なのかよくわかってないけどね。と、いきなり視界が陰った。
そして食べられた。
理解するのに時間がかかる。

「うわっ……!?」

「ファルスの頭はちっちゃいねー!」

すっぽり入っちゃったよー!と私を食べた犯人、ティポが口をモゴモゴ動かす度にもぞもぞと何ともいえない感触に懐かしみを感じながら一生懸命頭を抜こうと引っ張った。
結局私が顔を出せたころには皆の休憩時間が過ぎ去っていたのである。

「あの、ファルス…」

「どうかした、訊きたいことある?」

「昨日のことなんですけど…ジュードの首もとにあてた刃物はなんだったんですか?」

「ボク達てっきり刃物で戦うと思っていたよー?」

何を突然。かさばるものが苦手な私にとっての武器である拳は唯一無二、かさばらない武器として重宝している。医学者たるものが拳を武器にするのはどうだとか思われてしまうかもしれないがそこは目をつぶっていただきたい。

それで、昨日の刃物。刃物?
首を傾げながら昨日ジュードくんに向けた凶器に成り代わってしまったそれを取り出した。
それは万年筆。完全なる貰い物だが私個人としてはかなりお気に入りの一品だ。勿論このままでは凶器に見えるはずもない、ペン先をちらっと見せつけて脅そうとしたら効果覿面、というかルドガーがペラペラ喋ってくれたのである。

「私も仕事柄ペンが必要になっちゃうからね」

エリーゼとティポは安堵したように笑った。変な凶器を持った女の子と一緒に行動なんて恐かったろう、教えてあげればよかったのかな。

「つーかおたく、これ巷で有名なブランドのものだぜ?一体こんなのどこで手に入れたんだよ」

俺たちの世界での総評でしかないけどなとアルヴィンが続けるが、確かにもらって結構たった頃私にくれたその人も同じ様なことを言っていたような。あの時は実用性重視としてプレゼントしてくれたのにそうやって自慢げに話す姿はちょっと子供っぽい。いわゆるでっかい子供だ。

貰い物って返し、私はそっとアルヴィンにリンクする。白衣の内側から取り出した知人にもらった[私、思いを伝えるんだ環]。リンクによって私の思いが伝わるのではないかという実験をかねて、プレゼントしてくれたあの時を部分的に思い出してみた。


私がまだヘリオボーグではなくラフィート研究所で独自に実験を進めていたときの事。商人という名を語り始めて間もないアルヴィンがリボンでラッピングされた箱を届けに来てくれたこと。私は鮮明に覚えてる。まさかアルヴィンからプレゼントを貰えるとは思ってなかった。

リボンをほどき、細長い箱から取り出したのはペン、……いや違う。

「………万年筆?」

「実用性あるだろ?」

確かに。マグカップとかの骨董品となると自室に置かなきゃならない。万年筆はかさばらないし本人も言ったように実用性もある。
そりてなにより、



「……ありがとうアルヴィン、すっごく嬉しい」



離れてても元気がもらえそうで
(私のお気に入りなんだよね)

2013.8/23


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