スキット・243より
この日、ゼロスは自室へと向かっていた。彼にしては珍しく一人で私自信も少し驚いた。が、あの【誰か俺さまを慰めて〜】オーラを出しているのなら、誰かを口説いて失敗したのか、しいなと喧嘩をしたかのどちらかだろう。
そんな事を考えたり考えなかったり。私はいつも通りに声をかけた。
『ゼロス。ちょっといい?』
「ん、ナナシか。俺さまに何か用?」
私なんかで申し訳ありませんね。そう言ってやりたい気持ちも少しはあるが、その気持ちを表には出さず、私はニッコリと微笑んだ。
『あのね、前に「あ〜〜〜もう、俺さまも女子と一緒に寝泊まりした〜〜い!!」って言ってたじゃん?』
うん、私よ。頑張った。ゼロスの物真似を本人の前でやったのは初めてだ。
そしてゼロスよ。引くな。スゴく危ないような者を見るような目で見るな。
「はぁ?いきなり何だよ、お前」
『だからさ、部屋に華がないって、この前ロイド達に言ってたじゃん』
言ってたはずだ。つか、もうバカでかい声で言っていた。私の耳はそこまでよくないけど、でかい声ならちゃんと聞き取れるんだからな。
私が必死こいてゼロスに思い出させようと色々言うと、思い出したのか「あ、あの時の話か」と手をポンと鳴らした。
「なに、ナナシってばもしかして俺さまの部屋で寝泊まりしたいとか?何々。文句は言わねーよ。さぁ、俺さまと共に部屋まで行こうぜ!」
そして思い出した途端のマシンガントーク。ああ…私の耳じゃ全ては聞き取れても内容を理解しきれていないぞ。あ、理解するのは脳ミソか。
とりあえず理解はした。
そしてゼロスが変な勘違いをしていることも。
まぁ…でも、ゼロスを部屋に戻そうと思っていたし、結果オーライ?
『うん。ま、いっか』
「おわっ!?」
ゼロスやロイド達が自由に使っている部屋。
その扉をあけたゼロスが声をあげた。私の目には残念ながらゼロスの背中しか見えない。
ゼロスの背中はつまんないな。ルークの背中みたいに可愛い何かの模様でも入れればいいのに。あ、トクナガとかなら可愛くないかな?
「ゼロス…来るのが遅いよ……」
「おまっ、ジーニアス!?何て格好してんだよ!」
何て格好。そんなことを言っちゃいけないぞ。誰だって色んな自分を見つけたいと思っているんだからな。
人の歩む道を他人があれこれ言ってはいけないんだ!分かっているのか!
「だってナナシが『これを着てくれたらプレセアと少しの間二人きりにさせてあげるよ』って言ってくれたんだもん」
あーあ。ジーニアスの馬鹿者。何で私の名前をそこで出しちゃうかなぁ。
私はゼロスを押し退け、部屋の中に入り、ジーニアスを見せつけるように両肩に手をのせた。
『どう、気に入った?』
頑張って型紙を集めたメイド服!
一度はジーニアスに着させてみたいと思っていたこの乙女心をゼロスの一言で叶える事ができたんだ。
私はジーニアスのメイド服姿を見ることができて、ゼロスは部屋に華を取り入れることができた。
私って何気に頭よくない?
「気に入るわけねーっしょーよ!つか、俺さまは女子と寝泊まりしたいの!」
案の定、ゼロスは反論した。
何でこんな可愛い子を気に入らないのだろう。やっぱり男の子だからか?私は一向に同性愛だろうがなんだろうが気にしない。つか、むしろゼロスはロイドをとるのかしいなをとるのかはっきりさせたほうがいい気がする。
『ワガママ言い過ぎ。何ならしいなでも呼ぶ?』
「そこにナナシがこの部屋に来るっていう選択肢は無いのか」
『無い』
残念ゼロス。私にゃ多分口説き文句は効かないよ。第一私がこの部屋に泊まれるわけがない。まぁ、メイド服を着ているジーニアスが一晩居てくれるんなら泊まってやらないこともないかもしれないが。
「即答っ!?」
ゼロスのナイスツッコミ。そんな彼に『私、クラトスと喧嘩中だから』と伝えれば「逆に喧嘩した内容を聞きたい」と返された。随分とお前は何でも聞きたがりだな。
まぁ、聞かれなくても話すつもりだったけどさ。
『クラトスに『トマトは砂糖をつけて丸かじり派?それとも塩をつけて丸かじり派?』って聞いたら珍しく怒りやがった。何だよ、あの紫タイツめ』
そうだ、あの紫タイツ。クラトス・アウリオンめ。トマト嫌いとか子供ですか、なんなんですか。こないだコレットと話しているの聞いたんですがアンタ、4000年も生きているらしいじゃないですか。つまり4000歳!
苦手のひとつやふたつ。克服しないでどうするんですか!全く……親の顔が見てみたい。無理だけど。
「あー……クラトスの奴、トマト嫌いだって顔に表れてるもんな…」
「確か、ロイドもだよね!」
「ハニーとクラトスの苦手なもんが被るってのはなんかイヤだよなー」
あ、話の流れがトマトになってしまった。えっと、今まで何の話をしていたんだっけ。ああ、ゼロスの為に華を用意した話で、私はゼロスの部屋で寝泊まりする気がないっていうのを伝えたんだった。
『とにかく!』
手をパンッと叩き、二人の視線を私に集めた。
『私はこの部屋には泊まれない。しいなは多分来ないし、リフィル先生が来てもゼロスが望む進展は確実にない!』
「何でしいなが来ねぇって断言できんのよ?」
『コレットが来てもロイドと楽しく話てんだろうし、プレセアが来たら』
「プ、プププ、プレセアは渡さないんだから!」
『ね、こうだし』
「いや、俺さまの質問は無視?」
『んもう…うるさいなぁ。答えりゃいいんでしょ、答えりゃ』
別に無視した訳じゃないっつーの。人が話している間に質問するアンタがいけないんじゃないか。
なんてことは言わない。んにゃ、言えない。これ以上この場をややこしくしたら収拾つかなさそうだ。
『しいなが来てもアンタがしいなにセクハラするかぎり、寝泊まりなんか無理っていう話よ』
「単純明快だね」
私の言葉に賛同してくれる頭のいい少年。背はちびっこいが、頭脳だけならゼロスにゃ負けてないと私は思う。だってゼロスって数学しかできないじゃん。
「じゃあ、セクハラしなきゃいーんしょ」
だから連れてきてよ。とでも言いたげな視線を送られたが私は首を横に振った。
『いや、アンタの場合、【歩くセクハラ】だから無理じゃない?』
「ゼロスは絶対に無理だね。あっちふらふらこっちふらふらしてはペチャクチャ話しかけているし」
またもやジーニアスは私に賛成の意を示してくれる。何回も賛成してくれると私自身が頭よくなったような気がするね。よし、今度ロイドやカイルとテストの成績で勝負してみようか。
『だからそんなゼロスに解決策!』
『可愛い可愛いジーニアスを女の子だと思って毎日を過ごせばいいんだと、私は気づいたのだった!』
万事解決!
(いや…無理、)(無理って決めつけることがダメなんだよ)(て言うか、ナナシ。いつになったらプレセアに会わせてくれるの?)(あとでね)(おいおい…)
2011/02/19
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