プロローグ


私はごく普通の親によってこの世に生まれ、ごく普通の家庭で育ち、ごく普通の成績によって高校受験も難なく去っていった。

そんな私は久しぶりに愛用の眼鏡をかけて呑気に書店へ向かう。皆がよく利用する大型書店などではなく、近所にそびえ立つ、ごく普通の書店へ向かう。

いつものように、文庫本の最新刊のチェックをしに行くだけ。別に、私はマニアではないからただ読めればいい。だからそこまでお金はかからないことだろう。

私はごく普通の金額が入った財布を片手に、行き付けの書店へ到着した。自動ドアが開閉するときのウィーンという音を鳴らす。次にはアルバイトの人だと思われる若手の店員さんの「いらっしゃいませ」。心の中では、一体何を考えているんだろうか。

久しぶりの客だから立ち読みだけで帰すわけには行かない。だろうか。それとも、なんで客なんて来るんだ。近くに書店がいっぱいあることだろう、そっちへいってくれないか。だろうか。

私だったら、後者かもしれない。働かなくても給料は手にはいる。例え安月給だろうがお金はお金。むしろ、立っているだけでいいのだ。儲けものだろう。

そんな下らないことを考えながらも、いつものように文庫本が置いてある棚のもとまで足を運んだ。




   ♂♀




「お。オオカミと七味の仲間たちだ。最新刊発売されていたのか。チェック、チェック」

私は電撃文庫が好きだ。
一番最初に出逢ったのは母が若いときにやっていたゲームの小説が電撃文庫で出版されていたからだったと思う。勿論、その本は今でも継続して購入しているし、他の本にも手をつけている。

そういえば二年前ほど前だったか。学校帰り、大型書店へ寄ったときに熱く語っていた人が二人ほど居た気がする。私は池袋に在住こそはしているが、大型書店はそこまで好まない。本がありすぎて目移りしてしまうからなのだけども。いつかはその輪に入ってみたい。当時は、そんなことを胸に秘めている私が居た。

「うわっ!」

バサバサバサ。
詰まっている本を力任せに引っ張ってしまった私は、あわてて床に落ちてしまった本を拾うことに専念する。

店員さんの耳にまで聞こえているだろうこの広くない本屋で、私だけがお客として居るのに手伝ってくれないということは、やっぱり後者だったと言うことが分かる。近頃の……、まぁ、私を含めた若者達は皆、代わり映えのしない行動をとるから仕方ないのだろう。

逆に変わった行動もしてみたいとは思うが、注目は浴びたくない。取り柄というものが何もないのに目立っていても仕方はない。あとはバカだと思われたくない。

………そんなところだろうか。


「ん。あれ……、この本ってなんだろう」

読んだことのない本が一冊あった。いや、私の目でみたことの無いものなど世の中には多々存在するのは確かなのだが、私の五感か、もしくはあり得ない話だが六感かもしれない何かが、この本を今買わなくてはならないと言ったような気がしたのだ。

チラリと表紙を見てみれば8人…いや、9人の人ととても印象に残りそうな題名が載っていた。なぜ、今まで私はこの本を手に取らなかったのかが気になる点だったが、この本と買う予定だった本を手に、会計まで足を運んだ。



この本を手に取ってから私のごく普通の日常は、真新しい非日常へと変わっていった。


そして、ここから私の物語は始まる。それは、どうなるのかまだ分からない。向かう先は、ハッピーエンド?それともバッドエンド?それすらも分からない。


そんな物語が今、確かにここから始まった。



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