あなたの方が。


『好き』

その一言が言えたらどれだけ楽なのだろう。
私だって言ってやりたい。言ってやりたいのは山々だが相手が相手。

「……なんですか、さっきから」

「な、何ってなにさ」

「じろじろ人のことを見ているでしょう?視界に入るたびに気になってしまって仕方がないんですけど」

「シェリアのスカートの短さに気をとられている人に言われたくないっての」

知っていたんですか。知りたくなくても目に入るっての。と投げやり気味なキャッチボールを続けながら、先のほうを歩いているアスベルやソフィを追いかける。

隣の歩くメガネを見ては、ため息。あぁ…、なんで私ってばこの人のことが好きになっちゃったんだろう。そう思いながらも、現に今だって心の臓がバクバクドキドキ。

もう少しのばせば触れそうなヒューバートの手。のばしたいが「なにするんですか」「やめてください」のどちらかで払いのけられることとなるんだろう。

「ヒューバートってさ、結局のところ……なんなの?」

「は?」

「………、なんなの?」

「なんなの?って何についてを聞いているのかが分からないんですが」

「簡単に言わせてもらうと、ヒューバートはシェリアが好きなのかパスカルが好きなのかを聞きたいの!」

ああ、もうっ!なんで私ってばこんなこと聞いているのよ。第一、今更だけど、なんなの?って聞いても分かるはずがないよね。バカバカバカァ!!

先を歩いている皆は私達に気づかず姿が小さくなっていく。面と向かいあって、目と目をあわせて、逃げ出さないように手をしっかりと握って。

ヒューバートの言葉を待つ。

「僕は、シェリアもパスカルも好きですよ」

「……あっそ。せいぜい二股かけて、皆に嫌われないようにね」

パッと手をはなし、皆を追いかけるように踵を返すと次は私の腕をつかまれた。

「待ってください、ナナシ。まだ僕の話は続いています」

「なにさ。私のことも好きってか?…冗談は嫌いだよ、私」





次の瞬間、私は腕をくんっと引っ張られ、すっぽり彼の腕の中へ。


「ナナシ。貴女のことは……、愛しています」



あなたの方が上手
(はっ…!へっ…えっ、うそ……。ドッキリ!?)(やはり貴女はバカですね。なんでいつも隣を歩いていると思っているんです?)(じ…じゃあ、シェリアとパスカルは?)(仲間として……ですよ)(むぅ。………ならさ、私だけを見てよ?危険なことに巻き込まれたとき以外で(結局、私は人に対して優しい彼が好きなんだ))


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