『だぁああぁぁ!入んないっつのぉ!!』
ダンダンと体育館にボールがバウンドする音が響いた。
部活の皆はすでに出払っており、夕日もすでに沈んでいる。いつものように見回りしに来る先生(ま、大体は蘭丸)が来るまでフリースローの練習をするのがここ一週間の日課みたいなものになっていた。
来週の火曜、4時間目の授業は体育。しかもフリースローのテスト。べつに、苦手とまではいかないけど一回も入ることができなかったら友達にからかわれる。
………ま、女子の友達なんてあんまりいないんだけど。
『んにゃろぉ!』
両手で投げても入らない。なら片手で……、
そう思った私はボールをぶん投げた。
「バァカ。ンナことしてても入るわけネェだろォ?」
ブンッとドッジボールの容量でぶん投げたボールはいつの間にかやって来ていた年にしてはあわない身長をお持ちの彼の手にすっぽりうまっていた。
『せ、仙道先生!?あれ、今日は蘭丸じゃないの?』
「ランマルゥ。何、お前らそーいう関係だったってかァ?」
『そういう関係って……、ただの親戚ですが?』
一体、何を勘違いしたのか?
そういう疑問をよぎらせはしたが、首を左右に振り、何でここに来たのかを聞いた。
『で、仙道先生は何しに来たんですか?数学はやりませんよ。だって苦手なんだもん』
「べェつにィ〜?ただ一人荒れてるアホをォ、近くまで見に行こうかと思って来ただけだしよ」
なんか、いちいちカンに障る人だ。全く、何でこんな人が数学を教えているんだ。
………いや、教えていない。
前なんか授業中にもかかわらず水鉄砲を持参してきて教室中がびちゃびちゃになったこともあったし。
『見に来たならいいじゃないですか。私は蘭丸が来るまで一人で遊んでいるんだからさっさと家に帰ってください』
彼に向かって歩を進めながらいつしか睨むように目を細めてボールを奪う。
怒りあふれている私と楽しそうに嫌な笑顔をふりまく仙道先生。
かなりムカツクゥ!
「おめェは肩に力が入りすぎてんだよ。それに腕を高くあげすぎだっての」
『は…、は?』
「だからよォ、こうすんだって」
ボールを持っていた私の手を、意外と大きな男性特有のごつごつした手で包む。言われたように肩の力をぬいて、されるがままのフォームで投げてみるとリングにすんなりと入った。
『入った……。えっ、嘘。入った!?』
「ったりめェダロ?このNBAのオレ様が直々に教えてやってンだから」
本当にスゴい。
何度も言うが身長はさほど高くないし、イタズラでいつも人に迷惑かけているし。
ま、数学の教え方は妙に分かりやすいらしいけど(私は何を言われようが分からないから分かりやすいもなにもない)。
今日はじめて、この人が頼りがいのある人だと認識できた気がした。
勿論、さっきのコツを何度も何度もやり直して体育の授業でも高得点をとることに成功した。
嫌いから好きへ
(仙道先生!)(まァた名無しかよ。そーいや体育のォ……、ハゲがオメェのことをべた褒めしてたゼ?チョーがつくほどキモかったけどナァ!)(いや、仙道先生だって一部がr……!)(ナァ〜ンカ嫌な単語が聞こえたよ〜な気がすんだがァ。ゼッテェ【ハゲ】とか言うんじゃネェぞ?)
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