いらない




『ヒューバート、今…暇?』

ぎゅううっと後ろから抱きつくようにして聞くと鬱陶しそうに睨まれた。


「残念ながら暇ではありませんよ。今、本を読んでいますので」

『嘘』

「嘘なんかじゃありませんよ。ほら、この本です」

そう言ってつきつけてきたのはスゴく分厚く、難しそうな本。何々……?砂浜戦隊サンオイルスター〜ストーリーブック〜?………見なかったことにしてやろう。

『でも、読んでなかったでしょ?』

この言葉にピクッと反応を示すあたり図星だろう。というか、今のヒューバートが本なんか読めるはずないんだ。

「……何で、そう思うのですか」



『だって今、ヒューバートがかけてる眼鏡って……ゴーグルじゃん』

ゴーグルに度が入っているレンズでももっているならまだしも入ってないのだから見えるはずがない。……というか、逆に視界が悪くなっているのではないのだろうか。

「誰のせいだと思っているんですか!」

『いやぁ…、私のせいかな?』

怒り露につけていたゴーグルを私目掛けて投げ出すヒューバート。そんな彼に向かって私は謝りもせずに頭をポリポリ掻いた。だって仕方ないじゃないか。


『ていうかさ、戦闘終了後に眼鏡を落とすヒューバートが悪いんじゃないの?』

「下も見ずにはしゃいでいた貴女に言われたくないですね」

プイッとそっぽを向くヒューバートを見ながらため息を吐いた。

………せっかくかわりの眼鏡、買ってきてやったのに。

視力がどれくらい悪いかは知っていた。何てったって眼鏡を物色していたこともあったし。本人からどれくらい視力が悪いのかも聞いたことがあった。


だから、わざわざ自腹を切って買ってきてやったのにな。渡せる機会がなさそうじゃんか。

再度ため息を吐き、裸眼のヒューバートに此方を向くよう促した。

「な、なんですか……?」

『ちょっと、ヒューバート。う、動かないでよ?人にかけるのって嫌いなんだから。………鼻に入りそうで』

「(……は、鼻?)分かりました」

おずおずといつもより可愛いげのある彼に近づき、先程手に入れた、高価そうな眼鏡をかけてやる。気に入る、気に入らないはヒューバートの勝手だけど、……なるべくならすてないでほしい。


「……っ」

『うん。やっぱり眼鏡だよね、ヒューバートは』

えへへ…、奮発してやったんだよ?と笑うと、顔を真っ赤にしたヒューバートに抱き締められた。

「こ、こんな物で許してもらうだなんて下さいね」

『なによ。これでも結構な値段の物なんだよ?というかゴーグルよりそっちのほうが自分でもいいと思うでしょ?』

こんな時にツンにならないでほしい。なんか可愛いんだもん、ヒューバートって。

髪を撫でてやると、子供扱いしないでください。とでも言うような目で見られた。いいじゃないか、私の方が一歳年上なんだから。

「ふぅ…。子供扱いするナナシには、少々お仕置きが必要みたいですね」

眼鏡の奥がキラリと光り、私は背中に冷や汗が伝うのを感じた。やばい、このヒューバートは危険信号は発信されるほどヤバイ要素がギンギンだ。

『ヒュ、ヒューバート!それよりもさっき見せてもらった本のことなんだけど………』

「…?なんですか?」



『あんたも、結構可愛いところあるよね。砂浜戦隊サンオイルスター〜ストーリーブック〜を読もうとするだなんてさ』

私を抱き締めたまま固まる彼に、私は笑った。





慌てて言い訳を考えるが既に遅し
(え、ええっと…ナナシ。誰にも言わないで下さいね?)(どーしよーかなぁ……ストラタ軍の小佐様がサンオイルスター好きだなんて私くらいしか知らないよねー)(ちゃ、茶化さないでください!ナナシ、お願いですから!!)(はははっ!言わない、言わない!私とあんたの秘密だね!!)



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