『うぬぬ……、うぬぬぬぬ………』
ソファの上に寝そべり、DSを手に唸っている少女が一人。まぁ、DSをどこで手に入れたのかは聞かないでほしいのだが。
『うっがああぁっ!ムリッ、ムリッ!勝てないッスよぉっ!!』
「どうしたんだ。少し外まで響いてるぞ?」
ガチャリとドアを開けて入ってきた本日のお隣の部屋の人、アスベルになにも言わずにDSを投げつけた。
「うわっ、なにするんだよ。壊れたら大変じゃないか!」
『だって、こかめにんってばすぐに死んじゃうんだよ!?』
アスベルがちらりと画面を見る。そして静かにため息を吐いた。
「ナナシ、お前…レベル上げしてないだろ」
『だってめんどいもん』
「めんどいって……」
幾らなんでもレベルが3なのに推奨レベル11のところに行ったって勝てるわけがないだろ。そう言いながらやり始める音が聴こえる。
「それにさ、この【裏のほら穴】はやった方がいいと思うんだよな、俺」
へぇ…、こんなところも忠実に再現されているんだな。
『…………』
ちょっと待てぇ!
アスベルってば裏のほら穴に行ったことあるの!?と聞いてやりたかったが、どんどんアスベルの顔がしかめっ面に変わってきているのでなにも言わなかった。
そおっと覗いていると、いつの間にそこまであげたのだろう。レベルが5になり、武器はザピィの銅像。攻撃範囲は狭いが攻撃力は申し分ない。なのに何でそんなに顔をしかめているのだろう。
「こ、こいつ……」
画面を指差す先にはボス。ボスを指差す前に攻撃受けているんだからグミを食べるなりヒールをするなりしてほしいものだ。とりあえずRボタンを押しておこう。
「こいつ、七年前に助けてもらったやつなんだよ!」
『はぁ?』
いやいや、これってゲームでしょ?助けてもらえるわけ無いじゃないか。てか、万が一助けてもらったことを信じてやったにしろ、今は敵。現に今、現在進行形で攻撃を受けているんだから!
Xボタンを押し、持っていたグレープグミを食べさせる。そして、未だに戦おうとしないアスベルの手からDSを奪い、ボスを倒そうと試みた。
だが、その時、プツンと画面が真っ暗に。
『ちょっ……ちょっーー!なに、消してくれてんのよ、アスベル!!』
あり得ないんだけど!データが全部パァなんだけど!!そう怒鳴り散らすと、アスベルも珍しく大声で反論してきた。
「助けてもらった奴を殺すわけにはいかないだろう!」
たとえそれがモンスターでもだ!
バチバチバチと火花を散らし、にらみ合いをしていたが意味がない。
セーブをしていない私が悪いのか助けてもらった魔物を倒せるわけがないというアスベルが悪いのか。勿論、私からしてみたらアスベルが悪い。
『とりあえず、こかめにんを3レベルあげろー!』
「うわっ…ちょっ……いって!」
ぼかすかぼかすかと叩いているうちにアスベルに乗りかかるような体制になっていた。だが、そんなこと気にしない。いや、気にしないというかこの時点では怒りの方が大きかったからと言うべきか。
とりあえず、誰も入ってこないと過信していた私は馬乗りになったままアスベルを好きなだけ殴っていた。
女の恨みはスゴいものなのよ!
「アスベル、ナナシ。うるさい……。………なにやってるの?」
『「うわっ、ソフィ!?」』
「どうかしたのか、ソフィ」
「教官、アスベルたちが………」
「ああ、あれはだな………夜のお遊びだ」
『「ちがいます!」』
「お遊び……私もしてみたい」
『「ソフィ!?」』
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