特別にはなれない

「☆5ゼロスが欲しかったなあ……」

残った星霊石二つを手の中でころころと転がしてそいつはぼやいた。気づいたら俺の隣には名無しという存在が居て。旅に出ようと手をとられて色んな『過去』を覗いてきた。どうやって俺をここまで連れてきたのかを質問したこともある。「星霊石を使って召喚したんだよ」と軽く返され前を向くこの少年は果たして何が目的なのだろうか。

「……目的ぃ?そんなんないよ。ってか僕だってみたくてみてるわけじゃないし」

名無しが言うに、自分も気づいたらこの地に立っていたのだという。そして『運営』からの指示通りに行動しただけとのこと。戦闘には二種類の戦闘があるだとか持っていけるアイテムには個数制限があるのだとか。そしてそのあとに行ったのが『召喚』。俺が喚ばれたわけだ。

「……なに。アッシュったらそんなに旅イヤ?なんならスタメンから外すことも可能だけど」

「イヤとかそういう話じゃない。ただ貴様の駒として踊らされるのが気にくわないだけだ」

「駒って……、またまたアッシュったらそういう言い方するー。僕にとっちゃ皆が仲間だよ?」

嘘だ。そう言いきれるのに口から発することはできなかった。こいつは強い仲間を集めるために弱者を切り捨てている。☆1だとか☆2だとか勝手にランクを突きつけて。仲間Pを集めては知らない奴らを側に置く。名無しはそういうやつだった。
時間というものがまるで機能していない数々の物語を見るだけのために、意図的に作られた世界。そんな風にみえる空間でこいつは石を消費して召喚をするとき、いつも奴は景色と音を召喚をするときの陣の色を気にしていて。それが昼間の風景のなら苦虫を潰したときのような顔なのだ。それが少しイライラする。

(………というのも懐かしい思い出になったな)

ゼロスゼロスとぼやく名無しの隣は新参者であるリチャードが歩いていた。この世界のことを物語を読み取るまでの戦闘の知識などをまるで知らないあいつに叩き込むのだろう。これは少しの間、誰かのお話を読む行為は中断して曜日クエストに集中することになるはずだ。

「どうしたアッシュ、お腹でも空いたのか?」

「え、なになにアッシュお腹空いたの?ルドガーに頼む?」

ロイドの言葉に名無しは振り向いた。先頭を歩いていたルドガーも足を止めて飯を作ろうか?と言う始末。ここにはボケしか居ないのか。いや。俺を含めて二名はボケもツッコミでもなくただ単に何も言わないだけだ。それは俺ともう一人の俺。多少の時間枠が違う頃のアッシュ。今となってはおどろかないけど初対面のときは意味もなく体を固くした。

「いや。まだはやいだろう」

「ええええ、俺お腹強いちゃったよー」

「ロイドがかよ!」

言い合いを始める冒険者たち。史実を歩むどころか、毎日目をあけては適当に駄弁って一日を終える毎日。多少前に進むが飽き性のせいかすぐに進むのを止めてしまう名無しという存在。
どっちにしろ俺は名無しの指示通りにしか動くことはない。チームから外されればそれで終わり。でかいのを倒すときにだけ喚ばれるだけ。別に悲観することはない。

「大丈夫だよ。僕、アッシュのこと手放すつもりないから」

まだまだ限突しなきゃだしー。と勝手に魔物へと向かっていく。ファーストアタック。見事名無しの攻撃は通ったようだ。
俺(アッシュ)と目が合う。次にパーティーからはずされるとしたら目の前に居るやつだろう。名無しの周りに居るやつらの中でランクが☆4なのはこいつだけだ。
本人もきっと分かってるんだろう。所詮俺らは駒にすぎない。弱いものはきられる。……………。

(俺も中々未練がましいな……、)

あいつは手放さないと言った。その言葉に安堵したのも確かだ。多分それくらいあいつと行動する時間が長かったからだと思う。その期間がいつまでなのか胸のそこで怯えつつ今日も俺は剣を振るった。



大丈夫。その言葉の価値は薄っぺらい
(……それにしてもリチャードはどうして戦闘も秘奥義も一言もしゃべってくれないのかな?僕はすごく悲しいよ)

2015.1/14



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