向日葵の彼。

(時期的に谷地ちゃんがバレー部顔出し前の話)

月島の家に上がってもう時計の針が90度変わっていた。
詰めこみすぎた頭はパンク寸前。日向と影山は自分たちのテスト対策用プリントが思ったよりもペケだらけで何とかなると意気込んでいた当初とうって変わっての冷や汗が滝のように流れていくのを感じるばかりだ。
溶けた氷で薄まってしまった麦茶を飲み干したこの部屋の主は、勉強を教える気がなくなったのかテーブルの上の自分の道具だけを片づけ始める。
嫌なくらい余裕といった月島の顔。山口も焦るほどではないため月島にならって広げられたプリントに手をかけた。

(…………)

進学クラスの差を嫌と言うほど見せつけられた二人は目と目で会話をしている。
このままで引き下がってしまったら合宿に参加できない。折角の東京。ネコとの再会。
日向にとっては他校の友達兼強敵に会うことができる絶好の機会。どうしても自分だけが不参加だなんて考えたくもない。
影山にとってもそれは同じ。とてつもなく不愉快だが頭のいいそいつに頭を下げようとしたその時、その長身眼鏡が唐突に口を開いた。

「キミたちさぁ…どうしていつも一緒にいるわけ?」
「「??」」

プリントやノートをひとつひとつ丁寧に片し終えた月島は冷房のリモコンをとって設定温度を一度低くした。冷えた風がなま温かいこの空間に一瞬だけ変化をもたらす。
月島の言葉もまるで冷房にそっくりで。唐突もない話に変人コンビは首を傾げる。そしてようやく内容を理解したと思われる日向は質問に質問で返した。

「じゃあお前はどうして山口と一緒にいるんだよ」
「俺がツッキーの傍にいたいからだよ!ツッキーが」

月島が口を開こうとする前に山口がツッキーがツッキーでと雛鳥が親鳥を呼ぶような声をあげてしまう。山口がとても楽しそうにまるで自分のことのように他人について語る様に語られている当人はため息をもらすことしかできない。

歯止めの利かない暴走列車、熱く語るその人に言うことはただ一つ。山口うるさい。その一言が唯一のブレーキだと気づいた数年前の自分を褒め称えたい。月島は眉をたれ下げてごめんツッキー!と謝る山口が大人しくなったのを確認して二人に向き直る。
とんだ茶番を見せつけられた。そんな表情を隠そうともしない影山に対し日向はただ純粋に答えを待っているようにもみえた。
相変わらずの対照的な二人。きっと共通する話題がなければ対することもなかっただろう、僕らも含めて。
一向に話し出そうとしない月島にしびれを切らしたコミュニケーション能力が飛躍的に高いそいつはそわそわした目線をプリントへと落とした。じっ…と、何を考えているのか分からない目線で見られ続けていたのだ、当然の反応とも言えるだろう。
次に月島が口を開いたのは冷たい風が部屋の空気に馴染んだ頃である。

「僕たちは付き合いが長いからって言えるけど日向と影山はまだ出会って半年も経ってないデショ。クラスも違うくせになんでよくもまあ、部活以外でも一緒にいるのかなーって」

移動教室の際、購買のパンを買いに行くとき、放課後も。確かに月島の隣に山口は居た。だけどそれは付き合いの長さゆえ。気づいたら隣に奴はいる。その程度の仲なのだから本人も気にもとめてなかった。だが、他人ともなれば気になってしまう。それも自分たちのような同じ中学出身都下ではないのだ。

「月島はさ、付き合いの長さって大切なことだと思う?」

「……?」
「俺さ、最初めっちゃくちゃ影山のこと嫌いだった!何かとすぐに睨んでくるし、トスあげてくんないし、」

眉をひそめた月島に日向は自分の思いをぶち当てる。文句を垂れ流す彼の隣では一言一言に釘を打ち付けられたような反応を見せていた。麦茶を一口飲んで、今日一番の大きな声で言葉を続けた。

「でも今は好きだ!」

だから一緒にいるんだ!どうだ、分かったか!
日向の言葉に分かる分かると山口がうんうん頷く。暑苦しいなぁと漏らしながら月島はみる。耳まで真っ赤にした王様の姿を。影山は突然の発言に両手で顔を隠していた。絶賛体温上昇中。夏の熱気に負けないくらい日向のどやった顔は眩しかった。

「……ま、日向の意見はわかった。で?」
「…ンだよ」
「日向の意見は聞いたけど影山の意見はまだなんですけど〜」

ニヤニヤとした表情を崩すことなく王様に言えば、真っ赤な顔を更に紅潮させて小さく口を開く。目線は日向にも月島や山口にも向かない。向けることなんてできない。

「す…す、……………〜〜〜!」
「はいー?何言ってるのかわかりませーん」

アヒルのように口を尖らせて言葉を紡ごうとはしたが当人以外の前で口にするのはなかなかどうしてか難しい。月島や山口だけでなく日向の視線さえも感じた王様はやけになったようで怒りをぶつけるように怒鳴りつけた。

「……好きに決まってんだろこんちくしょーが!!」

羞恥からか舌打ちをした影山は鞄の中にプリントやら教科書やらを無造作に入れ込み、帰んぞ日向!と颯爽と踵を返した。

「えっ!?わっ、待って影山!おじゃましましたあ!」

その後を追うように日向もあわてて鞄にしまう。にやける顔を押さえられず、油断してしまえば鼻歌までもが出てきそうだ。
外へと出て、家の前で待ってくれているそいつ。見かけによらず結構優しい男なのだ。去年は知ることなかったけれど今は違う。味方が違い見方も変わる。

「影山」

隣に入れて良かったそう思う。影山がきっとネットの向こう側にいたなら日向は『最強の囮』なんて名前もないだろう。そもそもレギュラーとして立てるかどうかも分からないのだ。日向の隣に影山が居たから。俺に寸分違わぬパスをくれるから、今の自分があるのだ。

きっとそれだけで焦がれてしまうわけではないだろうけど。でも、今はこいつの隣を独占したい。友情なのかはたして別物なのかわからないこの気持ちをもう一度宣言する。

「好きだ!」

「うるせぇ!俺の方が好きだ!」

返ってくる言葉を再度聞いて耳が熱くなった。
言っている好きの意味と言われている好きの意味が同じなのかは分からないけど、それでも今はどっちも好きということが分かればそれでいい。
影山の隣へ日向は向かう。今はまだ、特等席以上の望みはないのだった。



向日葵の彼。
(うわー…何アレ)(確実にツッキー変なスイッチ入れちゃったよね)(こんな住宅街で叫ばれてもね)(ねー)



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