オチなどない


小昼。窓から眩しい光が降り注いでくる。薄いカーテンをしてそれを遮ったボクは机に向かって座った。そんなときアラタは首にフェイスタオルをぶら下げて部屋に入ってきて鼻歌交じり。相変わらず陽気な奴。

「目覚ましとの競争はー」

れんしょーつづきーと歌いながらベッドを整えている。顔を洗っただけのアラタはまだみんなの前に顔を出せるような状況ではない。寝癖がヒドいが本人はたいして気にもとめていないご様子。
最新号のLマガを読んでいたボクは勿論集中できるわけもなく、そんなアラタに聞こえるか聞こえないかの声で「うるさい」と咎めた。

「休日の朝は不思議!」

聞こえなかったのかそれともわざとなのかノリにノっているアラタはどんどん声が大きくなってきていて。ずいぶん楽しそうに皺を伸ばしてところ悪いのだが黙ってもらいたい。
脇に最新号を挟むようにして椅子から降りる。

「にど、ねっ!?」

気にせずまだ歌う迷惑しらずに丸めた本で殴った。パコンッといういい音が部屋の中に響いて。気の済んだボクは元の位置に戻ることにした。丸まったLマガをなおすように反対の向きに丸めていると犬のようにギャンギャン騒ぎ立てる。

「なにすんだよ、ヒカル!」

「うるさいって言ったのにやめなかったキミが悪い。そんなに歌いたいんならカラオケボックスにでも行けばいいじゃないか」

1960年代の歌なんてしらねーよ!そう言って折角きれいになったベッドの上に倒れ込んだ。
あーだのこーだのとグチグチ文句が尽きないのかアラタは歌うのを止めてもうるさいままだ。これではLマガの続きを読むことすらできない。
少し黙ってもらうために話題を変えることにしよう。

「そういえばさっき歌っていた曲は?」

「あー…なんかもらった。ヒカル歌う?」

ゴロンゴロンと皺をこれでもかってほど付けたベッドから転げ落ちて机を探り出す。整えられているとは言い難い机の中から割とキレイな楽譜をとりだした。
明らかアラタのために作られたような曲。流石にボクでは歌えない。きっとハルキやサクヤでも無理だろう。

「アラタ…目覚ましなんて付けていたのか?」

一通り歌詞を読んでの着眼点はやはりそこ。ボクはかれこれアラタより四時間ほど前には起床しているのだが一度も聞いたことはない。コイツは「当たり前だろ!」と言いながらCCMを投げつけてきた。
自分で確認しろということだろうか。

待ち受けに写るぶっきらぼうな自分の顔。第一小隊として入隊することになった当日、そうつまりは神威大門統合学園に入学したあの日にアラタが記念にとかいって無理矢理撮ることになってしまった一枚である。そりゃ勿論その後アラタから送られてきたこともありフォルダには入っているが、はいっているだけ。
今となってはチームワークのとれてきた僕たちだけどあの頃は本当自分勝手だった。というか自分の役割もアラタやハルキの役割も考えたことなかったからな。使うことも二度と開くこともないだろうと思ってそのままだったのを思いだす。
そんな干渉に浸っていた僕だが本題を思い出しアラームのアプリを開いてみた。
そして眉をひそめた僕を不思議に思ったのかアラタが僕の名前を呼ぶ。

「…………これはなんだ?」

「なにってなんだよ」

意味がわかんねって言って画面を覗き込んで「アラーム?」と答えを導き出した。

いや、アプリの名前の話ではなく設定の話をしたいのだ。
確かにアラーム自体は設定されている。いるのだが、これで「連勝続き」と自慢げにいっていいものなのだろうか。呆気にとられていると丁度その時間がきてしまったらしくCCMが震えだす。
もう言い返す気力もない。そうだ、SCにも余裕があることだしスワローにでも行ってLマガの続きを読むことにしよう。
CCMを押しつけるように返して僕は適当に着替え始めた。

「あれ、ヒカル。どっかいくのか?」

「キミと話していたら小腹が空いた。スワローに行ってくる」

オレも行く!とあわてて髪の毛を直し始めた彼が用意し終わるのはあと30分くらいかかるだろう。丁度いい時間になる。
しょうがないなと言いながら腰を下ろす。

甘くなったものだな。

あの頃のボクじゃ絶対にあり得ない光景だ。自分のCCMに保存されていたぶっきらぼうなボクをもう一度みる。あの頃の自分の顔を見て笑えてくるなんてちょっとおかしいかもしれない。
待ち受けなんて気にもしてなかったけどたまには趣向を変えてみるのも悪くない。


「よし、行こうぜヒカル!」

示されるCCMの画面は12時。
画面を見てアラタを見た。
君はなにも変わらないなと呟いたがちゃんとは聞こえなかったのだろう、僕の名前を呼んだ。

「今行く」

うるさいアラタの前で本なんて読んでいられないだろうな。
残念だけどLマガの続きは今度にしよう。



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アラタくんが目覚ましに連勝しているなんて認めないですよ!ってお話です。最終回までに間に合わせようと思ったら予想外のエンディング曲に心臓持っていかれてしまいました。

あれは卑怯だよアラタくん。



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