テスト期間なう


カーテン越しに満天の星空。オリオン座の見える空は冬の始まりを告げた、そんな夜の話である。

声にならない欠伸をしてCCMで時間を確認した。明日は中間考査。もうそろそろ寝ないと明日は起きれないかもしれない。丁度全部の問題に答えを埋め終えたところだったので答え合わせをしたら寝ようかと思う。
隣で勉強しているルームメイトはなんというか、小難しい顔をしていて漸く僕の三分の一くらいやり終えたというようなところだった。

「あー…やっと一枚目おわった…、」

アラタは一枚目のプリントをベッドの上へと放り投げ、うがーっと怪獣のような声をだしては二枚目のプリントに取りかかる。

「うるさい。近所迷惑だ」

もういい時間だというのに元気な奴。
空返事が返ってきた。呆れてなにも言えない。ため息で会話の終了したこの部屋で一つ、字をなぞる音だけが聞こえる。
僕も解答用紙とにらめっこしなくてはいけないのだけれどどうしてもアラタがひとりで解き終えたというプリントが気がかりでなかった。

授業中ですら次のウォータイムのことで頭一杯な彼のノートにまともな文字が書かれていることは全教科含めて両手で数えられる程度にしかない。ノートは小学生の時によく持ち寄っていた自由帳のごとく、といった感じだ。

「…………、」

シャープペンで遊んでいた手を止め、例の紙を拾い上げて驚愕する。
美都先生から配られたテスト対策用プリントには綺麗とは言い難い文字で埋め尽くされていた。
消しゴムで消すのが面倒なのか間違った式には斜線一本引いてある。そして隣にまた間違った式。上から斜線。それの繰り返し。
正しい式がどこにあるのかすら僕には分からない。
確かに僕が解いた答えとおなじ答えが書いてあった問題もあったのだが、これで本当に理解ができているのだろうか。

「……アラタ」

「ん、なんだよヒカル」

あ、もしかしてオレに勉強教えてくれるのか!?とキラキラした瞳でみてくるがこの様子じゃもう手遅れだろう。付け焼き刃で何とかなるような奴じゃないことを一緒の部屋で過ごすことになってからイヤと言うほど思い知らされている。

僕はルーズリーフを一枚取り出してさっきまでやっていた問題をそのまま写した。
それをアラタに渡す。今の今までやっていたんだ、できて当たり前だろう。
だけどやっぱりアラタはうんうん唸りだした。

「…………」

これじゃ赤点確実もいいところ。このバカが補習授業を受けされる間、第一小隊はウォータイムに、いやブリーフィングにすら参加できない。こんなところで連帯責任を背負うのは嫌なわけで。とりあえず最低限の問題を解けるようになってもらえるよう、決して説明上手とはいえない僕自らが動いてスパルタ講座が始まったのだった。



「ってことでテスト期間中ずっと教えてもらってたんだけどさ。ヒカルってば厳しいんだぜ?一問間違うごとに殴ってくるし」

「それはアラタが眠たそうに返事するからだろ」

朝食をつつきながらアラタはまるで酷いいじめを受けたとでも言いたげに話す。
ハルキもサクヤも困ったように相槌をうちながら箸を進める。いつもと何ら変わらない光景だ。
毎度のごとく狙われたおかずを死守。当たって砕けていた奴の悔しそうな顔をみて自然と口元がゆるむのが分かる。

「それにしても二人とも変わったね」

サクヤの言葉に僕たちは見合わせて聞き返す。ハルキもサクヤの言葉に同意らしく深く頷いていた。

「最初の頃だったらヒカルはアラタに勉強なんて教えてやらなかっただろうな」

「しかも三日間ずっとでしょ?」

別に教えたくて教えたわけじゃない。
そう反論するが効果は今一つ。
でも、そうだな…確かに出会って間もない頃だったら張り合うことばかり考えていただろうし皆のことを仲間というよりはライバル意識の方が強かったような感じがする。
自分一人の力で戦おうとしていたあの頃が遠い記憶のように思えた。実際はまだ一年もたっていないのに。

「ま、ヒカルのおかげで全問埋まったしな!」

いやーよかったよかった。すべて食べ終わったアラタはお膳を返却口に返すために席を立つ。
そして僕を含めた三人は異様な緊張感に襲われた。全問埋まった、聞こえはいいがそれで安心できるのはそれなりに勉学に励んでいる人の意見だ。
僕は、いや皆知っている。
アラタは一度答えを出した問題を見直したりなんてしないことを。
ペンの擦れる音が鳴る中、近くで小さい寝息が耳に入ってきたことを。

今日から通常授業。
早いものはテスト返却が待っているだろう。
なんだか急に体が重くなったようだ。
あれだけのことをさせといて赤点なんかとったら承知しないからな。と言えども本人の耳には届かない。


「きみは、本当に空気をぶち壊すのが得意なようだな」


テスト期間も無事終了。
あとは返却を待つのみ、である。





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