春ですね!


「桜の時期だねー」

放課後、私はぽつりと呟く。そうだねと目の前の吹雪は頷いた。机同士をくっつけて向かい合わせに座る私たち。吹雪の顔ははっきりと見える。暖房の入った教室の窓際。まるで何かの物語のワンシーンみたいなシチュエーション。夕焼けの紅さに同調する春の紅葉。赤と桃色の混じった色は絶妙で。
窓の向こうに集中する私。勉強に手を着けるのが嫌だから桜なんてありきたりな話題を選ぶ。

もう少しで中間考査。
そう、何だかんだでもう六月だ。
北海道の桜の時期が遅いのは毎度のことだが予想以上に今年の寒気は長引いた。そして暖かくなったと思ったらもう夏同様。この気温差に風邪を拗らせるクラスメートも少なくはない。
葉が混じった桜にばかり目をやってペンを動かさなくなった私に呆れたのか下を向いていた吹雪はペンを置いてため息混じりに顔を上げた。

「名無しちゃん。勉強は?」

「もう少しー」

内地へ行ったことのない私はこの短い期間咲き誇る葉っぱ混じりの桜がなんまら好きだった。入学シーズンにテレビで桜や梅の開花で盛り上がっているけれどこっちじゃまだ雪に覆われている。東京の方の桜は確か、花が咲いているんだろう。私たち道民みたいに葉が混じっているわけじゃないんだろう。けど私はこの北海道の桜が好きだなぁって思うわけね。

「咲いたと思ったら散っちゃうんだなー。あ、これが一瞬の美ってやつ?」

「……ねえ、一応僕ら受験生でしょ。散るとかそういうワードは禁句じゃないかな」

そう言って吹雪はまた教科書に目を通す。よくそんな難しそうな文字の羅列に目を向けられるなぁ。中学三年の最後のFF全国大会予選、私たち白恋中は見事予選を通過した。でも初の全国大会出場、三年は最後の大会だ。吹雪もきっと勉強そっちのけでサッカーしたいんじゃないかな。

「今テスト週間だから部活休みだけど私サッカーつきあおうか?」

「……はぁ、そう上手いこと言って。勉強やりたくないの見え見えだよ」

バレたか。外なら桜がもっと近くでみれる。私の好きな吹雪のサッカーがもっと近くでみれる。そして魔の勉強から逃れられるのだ。これこそ一石二鳥、いや一石三鳥。

「私はもっと吹雪と一緒に居たいだけだもん」

だから嫌いな勉強だって夜やってるし。最初全然わかんなかったサッカーのルールだって覚えたし。絶対入るつもりのなかったサッカー部にも入った。まあ、大概ベンチ行きだけど。
二年の宇宙人が侵略してきたときのころを思い出す。あの頃までは吹雪の精神は安定していなかった。でも一件が終わって白恋に帰ってきた吹雪はすっきりしていて。私じゃやっぱり力になれないんだなって正直かなりへこんだ部分はあったけど。だけど一緒にいたい。私って重い女かな?わがままがすぎるかな。

「だってさ、吹雪の楽しそうな顔が好きだし」

平常心平常心と頭で漢字三文字を必死に浮かべる。
朱がどんどん強くなった。胸の高鳴りもおんなじ。景色と同調していたい。だって今が昼だったら絶対に顔が林檎色。何だかんだと私は吹雪に好きですアピールをぼかしつつもこぼしているここ数年だけど、中々私の好意に気がついてくれない。意地悪な吹雪。

「はいはい。じゃあ勉強しようよ」

ほら、ここ間違ってると私のノートの一角を指さす。ばーか。ばーか。いい加減私の気持ちに答えなさいよ。これでも好きなんて単語、男子には吹雪にしか使ったことないんだからね。
悔しくて私も勉強に取りかかる。友人としてでも彼の放課後は私にゆずってくれてるんだからとちょっとポジティブに捉えてみた。吹雪ってば何で私と一緒に居てくれるんだろう。断ってくれたならきっぱり踏ん切りだってつくのに。やっぱりどの方向から吹雪のことを考えても意地悪としか思えない。好きだけど。

ペンを走らせて数分後。静かな教室で向かいに座っていた吹雪が痺れを切らしたのか私の後ろに回ってわからない問題達をご丁寧に基礎から順に教えてくれている。教え方が上手なおかげで今回のテストもなんとかなりそうだ。朱暗い教室。そろそろ潮時かなってペンを置いた。

「……さて!暗くなってきたし帰ろっか」

「名無し」

名前にちゃんをつける吹雪が珍しく呼び捨て。アツヤモード以来、通常の吹雪にだったら初めてである。なんという初見プレイ。赤みがかる顔が夕と夜の間の色で消されていることを願う。
平静を装って何よと振りかえればそのまま顎をすくわれ触れ合う唇<ソレ>。顔が近い。彼の両目しかみることができない。瞬くことしかできない。

「僕のためにも頑張って勉強してね」

惜しくも離れていった顔。吹雪はにっこり笑って私のほっぺをぷすっと人差し指で刺す。顔真っ赤と笑う彼に私はやっぱり思ってしまった。


意地悪という言葉は吹雪のためにあるんだと。




どさん子の皆さん、春ですよ!

「あれ、名無し。ずいぶん暗い顔だけど…テストどうだったの?」

「吹雪に教えてもらったかいもあって何とか。ほら92」

でも、と窓の奥をみる。緑緑と青々しく葉を茂らせる木。桜とはいったい何だったのか。春とはいったい何だったのか。前は14℃位がざらだったのに24℃とはどういうことなのか。結局今年も花見も何もできなかった。あーあー…やっぱりテストそっちのけで吹雪と遊べばよかった。

「あーあー。あーつーいー」

「まだまだ夏はこれからだよ?こんなの序の口じゃない」

「地球温暖化めー。うちら小学生のときって24℃が7、8月の気温だったじゃーん……うう…焼け死ぬだろー」

「ああ。三時間目体育だっけ。陸上?」

「日焼け止め忘れた。……もうやだ」

ガヤガヤと教室の中は相変わらず色々と騒がしい。テストの確認とかが主の騒ぎの元だ。私たちも同じく騒ぐ中の一員。今までとおんなじ。おんなじだけど私たちの関係は一段ランクアップしている。

「友達以上恋人未満。一番立ち位置がよく分かんないよ」

「同じ高校受かったら晴れて恋人、だよ。頑張ってね」

「むむむ……」


ま、そんなの言われなくても頑張りますっての。

2013.6/11




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