Two-person 旅。


……………。

いったいどこへ行くのだろう。歩いて歩いて町外れ。エースは鼻歌交じりで隣にいる。それはもう不気味なくらいご機嫌に見える、初対面に近い間柄でこう思うのも失礼に値するだろうがはっきり言って気持ち悪い。
ピュンっと風を切る音が聞こえた。気のせいかと思ったそれは視界の先の動物たちが危機を察して暴れ出したことによって杞憂ではないことを知らされる。エースはあくまで笑顔。いったい何が起こっているの?

「あーあ、ナナシに当たりでもしたら危ないじゃないか。ほら、こっちおいで」

不意に手を取られる。走り出した私たちの後ろからはスーツの男が何人も何人もと現れたぱんぱんとつんざく音。ピュンピュンと風を切る音。変な矢印看板がある森の中へとエースは連れ込む。こんなことをしていて迷子にでもなったらどうするんだ。あまり薦めることはできないがナイトメアがいるならまだしも、私も多分エースも人だ。UMAじゃない。

「はっ…はぁっ、エー、スっちょ、」

結構走ったと思う。私も彼も人だとは思うが体力に差があるのは育ちの環境からして仕方のないこと。呼吸の整った彼に頑張って追いつこうとしてはいたが燃料切れだ。手は繋がれているがその場に座り込むしかできない。脹ら脛が悲鳴をあげている。エースも「ごめんごめん」とその場に座り込んだ。口からの酸素吸入はとても苦しい。喉が変に乾いてしまっているから余計に苦しく感じてしまう。鼻からだと量が少ない。それもそれで息苦しい。もう懐かしく感じてしまうが高校ん時の体育の長距離走。あんな体験もう二度と縁がないと思っていたのに、人生ってやつは複雑だ。

そして冷静になれば身体がふるえだした。
冷静になればなるほど恐ろしい。だってもしかしたらさっきの発砲で死んでいたかもしれない。死なんて今まで考えたこともない。何かの病気か事故、そんな何も考えられない状況に陥らなければ考える必要もないのだ。私の世界は事件に巻き込まれない限り大体が安全に満ちている。少なくとも発砲事件なんてドラマの見過ぎよ。有り得ない。

(…………この世界では、有り得なく…ない、?)

思えばブラッドはマフィアのボスだ。私は口先だけしか知らないしエリオットもたまに熱弁してくれるけどピンとこなかった。だってつい撃っちまった的な完全に説明が足りないんだもん。ディーとダムは確かに血だらけになっているところを見かけたことはあったがそういうとき本能からかなぜか二人を遠ざけていた気がする。

(見たくなくて……、知りたくなくて)

私はいつも人のいい部分だけを見てしまう癖がある。嫌なところは何も知らない何も見ていない。だから私は偽善者になれる。汚い部分を知らないから誰にだって優しく接してあげられる。でもいざという時汚い面を見てしまったら、私はどうなるのだろう。優しくできるのか、例えばエースがとてつもない殺人鬼でもそんなことができるのか。
小刻みにふるえる身体。やばい、とても恐い。エースがじゃなくてこの世界がだ。ますますアリスがこの世界に残りたい理由が分からない。こんないつ死ぬか分からない場所で何をしたいというの?私は帰りたい。帰りたい。

時間帯が変わった。昼から夜に。エースは傍らでいそいそと何かを組み立てている。………テント、だろうか。どこからそんな物を取り出したのか、そもそもクローバーの塔に戻りさえすればいい話じゃないのか。まさか結構森の奥まで入り込んでしまったわけでもないでしょう。

「あの、エース。つきあうってどこにつきあえばいいの?」

「あー…言ってなかったか?俺の旅につきあってよ」

た、び?トラベル?上を見上げれば塔が小さくも木から覗いている。こんな近くで寝泊まりするのもなんだかな。お金のない高校生が宿泊気分を味わいたいがために地元のホテルで一泊する、という感じなのだろうか。それにしてはテントセットを持ち歩くなんて用意周到すぎる。

「私はなるべく落ち着ける場所で寝たいんだけど」

「えー?テントだって落ち着けるだろ?」

「どこが、安心して眠れないでしょ」

さっきの男共がいつやってくるかもわからないのにこんな防御力の低そうな寝床で寝ろっていうのか。私も最近変なことに巻き込まれる。少しくらいぐっすりと眠らせていただきたいものだ。第一テントは一つ………、

「もしかして私あなたの隣で寝なきゃいけないの?」

案の定何を当たり前な。って顔に書いてある。信じられない、なんでこれまた怪しそうな人と寝なければならないんだ。これがディーやダムだったら寝ていたと思うけど、エースのとなりは悩むところだ。
何か大事な物を失ってしまいそうな気持ち。いや、処女とかそういう意味ではなくて心身てきな意味。

「ちなみに今からクローバーの塔に戻ることは?」

「えー?十時間帯くらいかかっちゃうよ」

「なんでそんなにかかるのよ!」

どうやらエースは迷子の天才らしく、私はついて来る人を間違えたと後悔してしまった。目の前には作りかけのテント。遠くに見えるのは暖のとれる塔。
私はため息を吐く。もう震えてはいなかった。




……………。




初めてのテント生活
〜Hypocrisy is my principle.〜

偽善は私の信条です。



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