It flew 今日 。


……………。

(迷った……、)

歩く、歩く。私一人の足跡が静かな森に響く。現在ぷち遭難中である。
アリスはまだハートの城にいる、と思う。ボディーガードの勤めはどうしたんだよとエリオットに言われてしまいそうだったが白兎さんに命をうばわれてしまいそうだったので。としか言いようがない状況をどうにかしてほしい。もう絶対、いや…多分行かないだろうハートの城を後にして既に二回時間が変わった。土地勘には自信があったはずなんだけどこうもたどり着かないと不安になっていくもの。

「……参ったなー」

頭を掻いても何も思いつかない。が、ここは森だ。私を覆うほどの木々に恵まれている。木登りなんて小学生ぶりだからどこまで上れるか分からないけれどやるしかない。少し太めの頑丈そうなそれに足をかけると聞き慣れない声が私の行動を引き止めた。

「何をやっている?」

片目を隠した色素のない髪の毛…と言うよりこういう説明もなんだが全体的に色素の薄い、今にも倒れてしまうんじゃないかと一目で不安に煽られそうな方が腕を組んで私を見ていたのです。
その瞬間悟った私はとりあえず間合いをこれほどかってくらいに開けた。いや、ほらだって髪の毛…白、銀?髪の人によく思われないのかもしれないし。また銃向けられたりしたらたまったもんじゃないというか。

(怪しい人に声をかけられても相手をするんじゃないってお母さんも言ってたし)

「君は子供かっ!」

固まる私。ずんずん近寄る怪しい男。
なにも声に発していないはずなのに会話が成立した。もし声帯がなくなっても対話できる数少ない相手。なんかの番組にでもでたら時の人にでもなれること間違いないだろう。木を一本境に見つめ合う。銃は向けてこないからとりあえずまだ取り乱すことはないが。

(名前も知らない人に子供扱いされた!私、もう駄目かもしれない)

「い、いきなり内気になるんじゃない!私が悪い人みたいじゃないか」

わざとらしく心の中で語れば言葉に対しての返答が返ってくる。信じがたいがこの世界ならでは、なのかもしれない。というかそう思うことしかできない。上から下へとささっと見る限り銃を所持してない模様。でも白兎だって時計を銃に変えたりできるんだから油断大敵。

「私はナイトメアだ!ほら、私の名前も知れたことだ。いい加減無駄に距離を開けるのをやめてくれないか!?」

………どうやら変な人ではあるが怪しい人ではないらしい。
両手をあげて自分の名を語るナイトメア。その姿は威嚇してる小学生に対する大人の対応そのもの。私は大人気ない小学生か。
隔たりからひょっこり顔を見せれば安堵したような嬉しそうな顔をみせるナイトメア。なんだ、その私が扱いにくい人間みたいな対応は。

「初めまして、私はナナシノナナシです。読心術のナイトメアさん」

あ、なんかまともな挨拶を初めてしたような気がする。ここのところこんな呑気な挨拶をすっかり忘れてしまった。お辞儀を一回。そうすれば「ナイトメアで構わない」と言われる。うわ、なんか偉そうなのがムカつく。

と、いう一通りの挨拶も交わしたことだ。
私は再び太い幹にあしをかける。膝丈のスカートが私の行動を阻もうとするが構わないで右、左と上へあがっていく。そんな私を見かねたのかナイトメアは木から引き剥がすかのように背中側から腰に腕をまわした。
当然のような空中浮遊。私も彼も地に足は着かない。それどころかどんどん高度が高くなる。

「はっ!?………えっ、は!飛んでる!?」

「……早く目的地見つけるんだ。私が、長く持たない……うう…」

「ええっ何その死に間際の台詞、あなたの顔色シャレになんないんだけど!」

安定しない浮遊感覚。酔ってしまいそうだ。
この世界を見渡す。森が多い。変な塔みたいがある。でも森の規模がすごい。そんな感じだ。背中側にはハート城。私はやっぱり迷っているわけではなかったようだ。もう少し真っ直ぐあるけば帽子屋領の端っこに入れるよう。よ、よし、覚えた!

「も、もう大丈夫!大丈夫だから降りようナイトメア!」

「ういい………」

ふらふら降りる。視界が回る。あ、これやばい。降りるじゃなくて、

(─……完全落ちちゃってる!?)

加速する身体。ナイトメアの最後の力で重力に逆らった。そのおかげで大事に至ることはなかったが帽子屋屋敷がどこにあるかも見失ってしまった。……とは流石にナイトメアに言うことはできない。真っ青な彼。最初の印象より酷い顔色だ。今にも何か吐き出そうな勢いで手で口を押さえる。

「えっ、えっ?」

「………吐く、」

その一言の瞬間、喉を悪くしそうなせき込みとともに真っ赤な液体を吐き出した。なんてバイオレンスな世界。こんな目の前で吐血する人がいるなんて。正常な脳は働かない。動けない、何をすればいいの。あわあわと慌てふためく私の前に知らない男の人が現れた。




……………。




置いてけぼりなこの状況
〜I would like to rest early at a hatter mansion. 〜

2013.5/3


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