Clever 感想は ?


……………。

あれから一時間帯過ぎた。あんなに暖かい日光が涼しく照らす月に変わってしまっている。現在、未だアリスの格好だ。そしてなぜかハートの城のお茶会に同席させられている。

手始めに名前について言い訳(説明)をしようと意気込んだら女王陛下様が気怠そうに歩いていたのだ。「アリスの身体を乗っ取ってる」と思ったらしい女王様。あの時は流石に驚いた。いきなり「祖奴の首をはねよ!」と言い出すもんだから。勿論、ペーターさんの時同様アリスという名の私が止めに入ってくれたからこの通り生きながらえているんだけど。
お詫びだかなんだか知らないがお茶会に引っぱられ、目の前には香りのすごい紅茶とお菓子が沢山。もう訳分からん。

「つまり、ブラッドが訊きそびれちゃったってこと?よね」

「名前を言おうとしたらディーとダムに遮られただけ」

説明も終盤。アリスは納得をしてくれたよう。円卓を囲むように座る私たち五人。刺々しい視線は一つ。ペーターさん。私の一生懸命の説明中も睨んで睨んでああ恐い。銃を向けられるよりはマシかもしれないけど何故こんなにも邪険に扱われなければならないのか。
気に入られたいとは一切思わないけど嫌われる理由がわからない。これは困ったものだ。

「帽子屋さんも酷いよなー。ナナシって可愛い名前を呼ばないでずっとファミリーネームで呼んでいたってことだろ?」

「全く、聞いていれば酷い話ではないか。そうじゃ、ナナシ。アリスと共に妾の城においで?」

私が不満の無いようにもてなすよ?と不適な笑みと共に紅茶をそれはもう上品にすするビバルディ。エースも楽しそうに賛同する。嫌な顔をするのはペーターさんだけのようだ。
私は飾り物ような洒落た置き方のクッキーに手をのばしながら首を左右に振った。

「あちこちに迷惑なんてかけられないから」

カリッと噛みつく。ほの良いバターの香り。本当紅茶にあう。普段私の飲む紅茶なんてティーパックだし。市販のクッキーもジュースをお供にしているし。こんな上品な食べ方をしなかった私が怨めしい。とても美味しいじゃないか。

未知の領域にたどり着いた気分。と、小さな幸せに浸れば本題を思いだす。

「そうだ、私とキスすれば戻れるってどういう意味よ」

中身の私か、見た目の私か。説明するのも難しい。ただ、入れ替わっているだけのことなのに物凄く複雑な内容だ。ただ、と言えるあたり私も順応力は鍛え始められているようだ。
結局の話、私の身体に入っているアリスからキスをするのか、アリスの身体に入っている私からするべきなのかが重要問題なわけで。

「君が、アリスにキスすればいいんだ」

指さされるのは私。つまり私からアリスにキスすればいいというのだけど。躊躇してしまう。中身はどうあれ見た目は私。私自身とキスをしなければならないなんて。屈辱もいいところ。
そもそもアリスが私なんかにキスしたのがいけないんじゃないか。あ、いやいや何度も言うがことの発端はエースだ。エースが思い出したように入れ替われるお話を持ち出したのがいけない。にこにこしたその笑顔をぶっ壊したい衝動に駆られるが我慢よ私。ここは耐えるべきだ。なんて言ったっていきなり剣を向けられたり銃を向けられたり、杖を向けられたり………、ちょっと、ここって考えれば考えるほどかなり物騒な場所じゃない。

(物凄く帰りたい……、)

俯くと長い髪の毛も下を向く。私はショートカットだから気にすることはないのだが邪魔じゃないんだろうか。頭が少し重く感じるのも髪の毛の量が関連しているだろう。こんな状態ならすぐに肩が凝っちゃいそう。サイドからこぼれる髪を耳にかけ、私を見る。中身がアリスだからだろうか、目元ぱっちりといった珍しい私。鏡で見てもこんな私を見ることはないだろう。

(……変な顔)

とにかく私も腹をくくらなければ話は進まない。席を立ち紅茶をすするアリスをこっちに向かせる。覚悟を決めているのか既に目は閉じられている私。やっぱりイヤだな……と手が止まってしまう。さっさとやってしまえればいいのにそれができない私。行動力の無さには自信がある。

私の後頭部に手をかけた。もう片方で顎をすくう。近づく顔、周りの観衆を見ないものとし口づけを交わす。震える唇。ふぁさりと耳にかけていたサイドの髪の毛が落ちる。私の視界もシャットアウト。
こうしてみると私とアリスが身体を使った新しい実験にでも参加させられているみたい。さしずめモルモット扱いってやつだ。

視界が戻り、花の鳴き声も聞こえる。品のある紅茶のかぐわしい香り、食べかけのケーキが目の前にあった。隣でうううう…とうなり続ける彼女に突き渡す。これは私が食べていたようでアリスの物。複雑だが多分アリスが食べるべきだろう。本来なら間接キスがどうのこうのって話題になるだろうが残念ながら私達はその線を越えてフレンチキスを交わす仲となってしまった。

(複雑な関係って奴だ……)




……………。




複雑な心境
〜The taste cannot be understood only by coming into contact with. 〜

2013.4/23


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