I can't 自殺 !!


……………。

今日も変わらなかった。
いつものように追いかけっこ。『か弱い』大学生の私は上へ上へと向かう。もう4階分の階段なんかで息切れはしない。底のすり減ったスニーカー。くたくたになった鞄。それを身に纏う私。
後ろからは私を追ってくる人たち。全く持ってこの大学には暇人が多いこと。あなた達、そんな事されたら私の単位が危ないんですが。
追いかけてくる中心には私の幼なじみが居た。鳶色の髪の彼の表情を読むことはできない。前髪で隠れていたから。………それだけではないと思ってしまう私もいるけれど。

後ろを振り返ることもままならないこの状況。目の前にはドア。迷わずドアを開け放つ。ここまではいつもの話。日常茶飯事。

(屋上ってどうしてイジメが起こりやすいのかな)

いじめは高校で終幕、とはいかないのだった。
いじめられて屋上へ向かうとなんだか死亡フラグがたっている感じがしてあんまり好かない。だがごらんの通り一面バックネットに守られている、あ、言い方がお母さん世代だわ。フェンスね、フェンス。
上を見上げて白い息をもらした。憎たらしいほど晴れている。雲一つない空、とはこのことだ。屋上もやっぱりいつもと変わらない。毎日変わっているのはこの天候だけど。先刻も言ったが屋上は周りをフェンスで囲っている。私から見ればカゴの中の鳥、だ。だれも開けてくれないから出られない。だれも助けてくれないからいじめが終わらない。目の前の鉄格子がなくならない限り鳥は羽ばたくことすらできないのだ。

パタパタと色んな靴音が駆けてくる。
静かに開け放たれたままのドアを見つめる私。そう、今。私はいじめにあっている。
とはいえ、規模は受講生の中の8割方だ。残りは中立を保っている人たち。私が話しかければ素っ気なく、それでも接してくれる。いじめてくる人たちが私を殴れと命令すればその場しのぎに私を殴る。

そんなこんなことが始まったのはもう半年も前のことだ。
あんなに桃色だったこの屋上からの景色も秋色に染まる。秋晴れ、もみじ、冷たくなった風。そしてもみじ。

(もみじ以外に秋の象徴ってなんだろう)

栗。トンボ、とかだろうか。赤く染まる景色に集まる講習生。目線は景色じゃなく私に集まる。まるで私が人気者のようだ。一人口元を緩ませ距離をとる。
幼なじみを中心にじりじりと詰め寄られる度、私の足も一歩、また一歩と下がっていった。
フェンスに背中を当てて、間合いを見計らって左右どちらかへ避ける。これが脳内インスピレーションで決めたこと。インスピレーションだなんて言うとちょっとかっこいいと思うの私だけ?カタカナで語数の多いものほどかっこいいものはないよ。

目の前のみんなの表情が曇る。「え、」とでも言いたげだ。口を半開きにさせたみんなの代表のように幼なじみの彼が私の名前を口にする。

「名無し…、後ろっ……!」

「えっ……、」

下がりざまに振り向けばそこにはあるはずのフェンスがなかった。足が崩れる。最早私の背中を守ってくれるものは誰も居なく、重力に逆らわない、いや、逆らえないこの体が憎く感じた。

ぶわっと下から風に煽られる。晴天の青が、秋を彩る赤が、黄色が、私の視界を包み込むようだ。
デパートの最上階からエレベーターで降りるときの感覚が落ちている気分がして嫌いなんだけど、そんな比じゃない。猫じゃないから体制も整えられないこの状況、地面はもう目の前だ。

「……っ、……!?」

苦しい、だなんて死に際に考えることじゃない。目線を空から地面へずらせばそこは異様な光景。なぜか地面に私が映っている。驚いた顔がそりゃあくっきりと。

(この地面を例えるなら水面?)

違う、鏡のようだ。地面なのに太陽に反射して目がくらむ。うっすらと見える向こう側の私。阿呆面が妖しげに微笑んだ。これはなんて危険な香り。いらっしゃいと動く口に頭から貫き落ちた。




……………。




鏡に吸い込まれた娘。
〜The point which got down and reached?〜

2013.3/30


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