雷門に着けば二人して怒られた。汗ばんだ手から解放されて私はとりあえず鬼道に八つ当たりをする。当然といえば当然だろう。鬼道が守くんに私の現住所を教えなければ私は悠々と木戸川まで自転車で向かったのだ。なんで誰が誰だか分からないサッカー部員と一緒に、しかもまるで関係者の一員の如くバスに乗せられなければならないのか。
「いや、どんどん論点から離れはじめているぞ」
八つ当たりから愚痴に変わっていく様をみて鬼道はぼやいた。バスに乗せられた仲間外れな私の隣に腰を下ろす彼は一応なんのことで私の頬が膨れっ面になっているのか理解しているんだとか。ただ、その時の守くんからただならぬオーラを感じてしまったからついつい…ってこれじゃ染岡の二の舞みたいで哀れにも思えてくるじゃないか。
「……すまなかったな」
『いや、鬼道がもし吐かなくっても誰かに問いただしていたフラグなら仕方ないよ。うん、おつかれ』
そうこうしているうちに到着したらしい。部員メンバーが更衣室に向かう際、私は観客席へと移動する。まだ席がまばらだったので適当な所へ座った。聞きなれた着信音。もちろん相手は守くん。
『もしもし』
「名無し。どうして秋たちと離れて行動してるんだよ。一緒にいなきゃお前が迷子になるだろ?」
『大丈夫だよ。無事に観覧席についたし』
そうか。守くん、皆が周りにいるからいかにも爽やか系男子のしゃべり方をしているんだね。電話の奥から部員の話し声を聞いて一人納得。いつもこんなだったら守くんの印象もぐんとアップするんだけどな。
「そうじゃなくて。名無しはサッカー部のマネージャーなんだからわざわざ上に上がらなくてもいいっていってるんだよ」
『ちょっ、守くん』
両親をはめた。のだと思う。そうだ、きっとそうなのだ。わざわざ遠い私ん家まで迎えに来たのも親の了承を、部活の入部届けの保護者記入欄に記入させるためだったんだ。
『してやられた…、』
「下で秋たちが待ってるからな!」
それは魔王様からの絶対命令なのだそうです。
「絶対来いよ!」
『言いたいことだけ言って切りやがって…、』
2013.2/8
- 111 -
[*前] | [次#]