私は物じゃないんです!


マサキがサッカーをしなくなってから一週間がたった。そんなときだ、豪炎寺からジャンヌダルクについて何か知らないかと電話があったのは。ジャンヌダルク?意外な話題に思わず知らないと言ってしまいそうになったがそう言えば一昨日リュウジから百年戦争に関する展覧会のチケットをもらったことを思いだした。百年戦争と言えばジャンヌダルクも話題となった話なのだから何らかの情報は手にはいるかもしれない。




と言うわけで豪炎寺と私は展覧会にやってきたのだった。有名な画家から、何からと。あまり世界史が得意ではなかった私は受付でもらったパンフレットと見比べながら歩いていた。何かの本で見かけたジャンヌダルクの絵の場所へと向かったが豪炎寺的にはダメらしい。ならどうしたものかと。パンフレットに目を通してみること十数秒、どうやら現地でジャンヌダルクが着用していたとされる鎧などの装備品が飾られてあるコーナーがあるのだそう。

「これは……、」

「あー……っぽいね」

そこにあるのはいかにも[それっぽい]もの。でもそれっぽいだけでどれも本物だと確信づけるものではなかった。そもそも私たちだって百年戦争があった時代を生きぬいたわけではないし、ジャンヌダルクがどんな人だったかなんて史実でしか分からないわけで。豪炎寺はあの兜を借りることはできないかと一人模索しているし、肝心な意図を見抜けぬま展覧会をでることになってしまった。



「ジャンヌダルクのいる時代へ?」

どういうこっちゃ。豪炎寺の説明がとても難しいとか言う次元ではないのだ。こないだのヒロトの話並な次元に私の頭はついていけない。とにかく分かったことはその最強イレブンを結成し、プロトコルなんちゃらって言うのを倒したら円堂が帰ってくる、らしい。
そしてその最強イレブンを結成するにはジャンヌダルクを意図づける物が必要になってくるのだそうだ。

とはいえ、展示物を拝借することなんて滅多にできるようなことじゃないのは豪炎寺だって分かるだろう。いや、今の彼が聖帝という職業に就いた時の給料があるとするならばもしかしたらそれを使ってしまいそうな気もするのだけど。それほどまでに円堂守という存在が重要なのは分かっている。十年の付き合いをなめるのは対外にしてもらいたい。

「名無し、つきあわせて悪かったな」

「ううん、こっちこそあまり手助けできなくてごめんね。また何かあったら連絡して。できることならなるべく手伝うから」




そう言い別れて連絡があったのはその日の晩の事になる。そのことを振りかえるより前に、マサキのことの方が重要同然ね。何の気が変わったのか部屋の端っこの方に無造作に捨てられたユニフォームがきちんと畳まれていたのである。不思議に思ってマサキにあの時と同じ質問をしてみた。


「マサキはサッカーのこと……、」


どう思ってる?と質問するよりも前に答えは返ってきた。それは私が望んでいた答えに笑顔がプラスされている状態で、思わず抱きしめてしまった。だって「嫌いに決まってるじゃん」とさも当然のように言っていたマサキが「今はもうサッカーのこと好きだから」と言ってくれる。豪炎寺が言っているのはどうやら今のマサキのように[元通り]に戻ることは可能なようで。円堂が夏未さんの隣に帰る日も遠くないと実感したのだった。




「もしもし」

「あ、名無しか?早速明日手伝ってほしい要件があるんだが……」



明くる日、私は豪炎寺に呼び出されたとおりに雷門中へとやってきた。豪炎寺はもう門の前で待ってくれていたのでひとつ謝ってはみたものの、気にしてはいないらしい。流石は豪炎寺。
気になるのは彼の右手にある兜。でも、まさかね。昨日みたような気がしてならないのだけど。豪炎寺は当たり前のように兜を手にしながら歩いていく。後ろをついて行けばそこはサッカー棟じゃないか。


そう、この豪炎寺について行ったのが間違いだとこのときは気づきもしなかった。何も知らない私がこの超次元な内容に巻き込まれてしまうなんて、一瞬も思うことなんてなかったのだ。





豪炎寺さんの手土産
(ついでと言えば何だがこいつ(名無し)も連れて行ってやってくれ)(ちょ、豪炎寺!?あんた何…、)

2012.9/1


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