授業中が幸せだと感じたのは十四年間生きていて初めての体験だった。授業中は隣の席の染岡と話をしているか窓から景色を眺めるかのどちらかの行動をとることができるから。でも終わったら最悪。
「名無し!」
ほら来た。黄泉送りにしようと送り人がやって来た。綺麗な笑顔でやって来た。もう私を射殺すんじゃないかってくらいの笑顔でやって来た。嫌な予感しかしない。もう私の平穏はやってこないこと確定申告された気がする。
『守くん。どうしたの?』
「放課後一緒にサッカーやろうぜ!」
ちょ。いやいや円堂様何をお考えになっているのでしょうか。私があなた様とサッカー?私がやるのはフットサルであなた様がやるのはサッカーでしょう。そうでしょう?第一運動神経が並々の私を誘う…って。あ、分かった。皆がいる前で恥をかかせたいに決まっている。
「どうしたんだよ。もしかしてサッカー、やりたくないのか?」
やるよな。やりたくないなんて言葉聞かねえよ。なんて副音声が聞こえた。誰だよ、こんな風に守くんを育てた奴は。どう考えても守くんおじいちゃんのせいじゃないか。おじいちゃんがよく守くんに構っていたからおじいちゃんの性格が移ったんじゃないか。絶対そうだろう。
『や、やる。だけどわたし下手だよ?』
「いいよ。楽しめばいいんだ!」
絶対に楽しめません。とは本人に言えないまま彼は休み時間の終わりを知らせるためのチャイムと共に教室を去っていった。ああ、嵐よさようなら。もう二度とやってこないことを祈るばかりです。
「なあ名無しの」
『なに?』
「お前、円堂が相手だとよく下手にまわるよな」
まわるしかないんだよ。だって彼を怒らせると何が起こるか分かったもんじゃないし。ああ想像しただけでも足がガクガクしちゃう。全くなにも知らない奴は幸せで羨ましいぜこの野郎。
『別に。そのぶん染岡をいじり倒すからいいよ』
決めた。憂さ晴らしは染岡にしてやろう。残念だったね染岡。私の隣の席になったのが運の尽きだったようだよ。
『覚悟しときなさい』
「なんでそうやって俺を巻き込むんだよ」
だって彼より恐いと思えるものはないからね。
『そうすれば禿げるんじゃない?』
「おまっ、昨日と言ってることが矛盾してるじゃねえか!」
2012.7/28
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