私が雷門に転入して染岡がいつか辺見みたいに禿げてしまうんじゃないかと心配してから一日がたった。教室に入ると私の席に誰かが座っているよう。あれ、ここって私のクラスで間違いないよね。
「名無しの」
『鬼道』
懐かしい声がした。と言っても懐かしいという表現は少しおかしいかもしれない。だって彼の家とはご近所さんだから。まあ、最初に雷門に行くことを聞かされたときは驚いた。帝国より雷門のほうが遠いし。病院に入院している皆に報告すると佐久間がいきなり泣きわめきだすし。
『よっ!』
あれには参ったもんだ。私と同じ病室に入院していた源田二人がかりで止めには入ったけどあれほど近寄りたくないものはない。本当、佐久間ってば鬼道のこと大好きだよね。実は鬼道>>>>>>ペンギンってところなんじゃないかな。
「名無し」
『うん?』
鬼道とは違う声で名を呼ばれた。鬼道よりは声が幼く感じられるその声の主を思い出すにはそう時間がかからなかった。時間はかからなかったけど、私はかっちんこっちんに固まることしかできなかった。そう、だって一見可愛く微笑んでいるよう見えるだろうが彼の目が魔王的なオーラを放っていたんだから。
『ま、守くん。……お久しぶ、り』
「やっぱり名無しってお前のことだったんだな!なんだよ、雷門にくるなら連絡してくれたっていいじゃないか」
そう言って彼は無邪気に抱きついた。まわりから見ればこれもスキンシップの一部にされるのかもしれないけれど、私にとっては最悪なアクシデントの一部だ。だって、私の耳元で低く「本当になんで俺に連絡しなかった?」と洩らされたし。あれ、これって最悪なフラグがたったんじゃない?
『守くんって雷門にいたんだ。わたし知らなかったよ』
あはは。もうなんて返しても目の前の魔王様を怒らせているのは明白だろう。恐いよ、助けて鬼道。って言っても彼は信じてくれないだろう。無邪気に人に接する円堂守が実は腹黒魔王様的存在だなんて。
「なんだ知らなかったのか」
『うん。ごめんね』
謝るからギシギシと握っているその手を離してください。
「雷門町にいる時点で雷門中に入学すると気づきやがれ」
『んなの無理に決まってる……!』
2012.7/23
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