Return my world

サッカー禁止令が出された。財前総理も認めた、らしい。おひさま園のみんなは当たり前だとサッカーボールの空気を抜き始める。どうして当たり前かと玲奈に訊けば不思議な顔をされた。

「こないだ行われた親善試合を見なかったのか?」

見たよ。と言えばなら理由はわかるだろうと返された。え、意味わからない。とてもいい試合だったじゃないか。そう言いたい気持ちでいっぱいだったけれどどうもそう言う雰囲気ではない。

「……名無し、大丈夫か?」

「なにが」

「いや…その、円堂さんの話だ」

円堂の話?親善試合に円堂って関係していたっけ。あれ、なんでこんなに話が噛み合わないんだろう。ぱちくりさせた両目が誰かの手で隠される。ちょっと名無し借りるね。その手はヒロトのものだったらしい。目は隠されたままぐいぐいと引っ張られるがままに連れていかれた先は十中八九ヒロトの部屋。鼻孔をくすぐるヒロトの香り。なんて言ってしまうと私がヒロトと深い中だと勘違いされてしまいそうだが。
ヒロトは手を離しベッドに腰かけるよう促す。勿論私は断るようなことでもないしと従った。そして私のとなりに同じように彼が腰をおろせばベッドのスプリングが音を鳴らした。私は喰いかかるようにヒロトに問う。

「ヒロト…、アンタ何知ってんの。親善試合の結果って何。円堂はどうなってんの!?」

もうワケわかんないよ…とベッドに埋もれる。もう涙がこぼれちゃいそう。玲奈の表情、あれはいい意味を描くものではなかったとどこかで確信できた。ヒロトは私の腕を掴み顔の前に持っていく。腕輪がギラリと嫌に反射した。こないだヒロトから譲り受けたこの腕輪。ヒロトも誰かからいただいたものだと聞いた気がする。

「この腕輪のせいだよ。いや、おかげ…かな?」

この腕輪のおかげで俺達は本来の親善試合の記憶がある。円堂くんが死んでないことだって分かっている。名無し、この世界は間違ってるんだ。
なんて難しい話なんだろう。間違った世界、とか超次元にも程がある。でも確かに私が、ヒロトが覚えているのは彼が語った世界。だって円堂は生きている。死んだなんて情報目にも耳にもしたことなかったんだから。


「ただいまー」

マサキの声が遠くから聞こえた。いつもと変わらないその声も偽物なんだろうか。行ってみれば分かるよとヒロトは小さく呟いた。その表情は丁度窓からの夕暮れが反射して伺うことはできない。私は私が記憶している[いつも]のように彼を玄関口までお出迎えしに行った。

[いつも]と変わらないその泥だらけのジャージ姿にスポーツバッグ。なんだ…マサキは何にも変わっていないじゃない。ふっ…と安堵の空気が漏れるのが自分でもわかる。

「ただいま。名無し姉さん」

「うん、おかえりなさい」

やっぱり[いつも]と変わらない。その親善試合の結果や円堂の話、サッカーが禁止になったこと以外何にも変わったことなんてないんだ。いや、逆に3つも変わったことが起きていると捉えても仕方ないのだろうか。でもどうして。どうやったらそんなことができてしまうのだろう。以前雷門中に攻めこんで来たオーガ学園なるものがまたやって来たとでもいうのだろうか。

「姉さんどうしたの?」

今にも泣きそうな顔してるってマサキに注意されちゃった。マサキに注意されちゃうなんて私もまだまだね。私は首を左右に振って何でもないよと言った。自分に言い聞かせた。


「ねぇ、マサキ」


「なに?」





「マサキはサッカーのこと、」




どう思ってる?





どことなく分かっていたんだ。
(何言ってるの姉さん、嫌いに決まってるじゃん)(どうして嫌い?)(だってサッカーなんて辛いことばっかりだもん)(……、そっか…)

2012.6/10


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