「なんの真似だよ」
部活の終わったあと忘れ物を取りに教室に戻れば新聞部の名無しのが小型のボイスレコーダーの何かのボタンをカチカチ押して椅子に座っていた。そこ、俺の席なんだけどと自分でも尊敬したくなるくらい柔らかく声をかけてやると耳障りなカチカチ音が止んだ。
そして席から立ち上がり、俺の方を見上げてはボイスレコーダーを差し出した。受け取ろうとしたのだがどうやら受け取ってほしい訳じゃないらしい。差し出したように見えたのはただの杞憂だったようだ。
そこで最初の言葉に至る。普段は騒がしいことでもの凄くいい迷惑していたけどこうも黙り込まれちゃ俺もどうすればいいのか分からない。眉を潜めたまま何も行動に起こさない俺に痺れを切らしたのか名無しのは大袈裟なため息と共にまたボタンを一回だけ押して俺に向けられていたものをおろした。
「狩屋くん、空気読んでよ」
「今ので読めるわけねーよ!」
その呆れた表情につい部活メンバーと居るときの顔に戻ってしまう。俺の言葉に怯むことなくコイツは勝手に写真を撮り始めた。意味が分からない。
「狩屋くん、インタビュー受けられなかったんでしょ?」
は。小さいその声も静かな教室では拾える程度の大きさに変わっていた。インタビューといえばこの前天馬がガチガチになって優等生な答えしか出してなかったあの何も代わり映えのなかったアレだよな。いや、確かにインタビューされなかったし信助までもがされていて俺がされなかったことは腹立ったけど。
「新聞部の今月の見出しは優勝したサッカー部について書こうかなって思っているの。ちゃんと顧問の音無先生には許可をとってあるから安心して!」
「それより何で俺がインタビュー受けてなかったこと知ってんだよ、誰から訊いた?」
天馬とか信助とか。絶対に訊かれたら満面の屈託のない笑顔で「狩屋はインタビュー受けられなかったんだって!」と悪びれもなく言うだろう。安易に想像できてしまうのがムカつくが、首を横に振って否定の言葉を漏らす名無しのを見れば違うことが判明した。どうやら誰かに訊いたようじゃないらしい。
「狩屋くんってよくふらふら〜っとしてるじゃない?インタビューのお姉さんが狩屋くん知らない?って私に訊いたから放送室借りて呼んでみましょうか?って言ったの。そしたら…、」
「そしたら…?」
「タイミングよく昼休みのチャイムが鳴っちゃって。オファー受けてたのが昼休みの間だけみたいだったから諦めて帰っちゃってたよね。狩屋くんももうちょっと分かりやすいところにいればテレビに映れたかもしれないのに」
確か誰かにも似たようなこと言われたような気がする。少し高そうなカメラを未だ俺に向けて眩しいフラッシュと共に写真を撮り続けていたのでいい加減にしろと名無しのの腕を掴んで止めさせた。
「で、なに。代わりにインタビューでもしてくれるわけ?」
「うんうん。そのとーり!最初にコレを突きつけたのもそう言う意図だったのに狩屋くんってば空気読んでくんないんだもんなー」
いや、何も言わずに突きつけても分かるわけねーよ。なんて気持ちが口からこぼれそうだったが彼女がとても楽しそうにまたボイスレコーダーを向けてきたのでノってやることにした。
秘密の取材中
(えー…では狩屋マサキくん。好きな人はいますか)(いきなり質問ぶっ飛んでんだけど)(いいからいいから。普通の記事取り上げたってテレビとかと変わんないじゃない)(だからって普通そっから訊くかよ…、)
2012.4/9
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