まるで…




ラムダを倒す。倒したら皆、バラバラになってしまうのだろうか。アスベルともソフィともシェリアともパスカルとも教官とも……ヒューバートとも。

「何をやっているのですか」


ラント西街道につづく道を歩いていると丁度向かいから歩いてきていたヒューバートに出会った。

「ヒューバートこそ。そっちに用事でもあったの?」

「………貴女には関係ありません」

決戦前夜だというのにキツイお言葉。結局私は、ヒューバートと仲良くなれなかった。パスカルとは友達になってよくデレるくせに私と話すときだけしかめっ面。シェリアに相談してみたけど愛想笑い。もうなんだか分からない。

「…………」

『…………』

私も含めて二人。立ち止まったまま何もせずにいた。


「あのさ、暇ならなんか話さない?」

話が続かないのならつくるしかない。咄嗟に『話さないか』と言ってみたはいいけど何を話せばいいのやら。できることなら断っ……
「いいですよ」

『……えっ』

「あそこの海岸でもいいですか?」

『うん、……うん、OKです』

なぜか珍しく素直。いや、驚かない方がおかしいよ。あり得ない、今まで誘ったことはないが、こんな素直に了承するとは考えられないのだ。











ザザァ……と波をうつ音が響く。近くの砂浜で月夜に照らされている私達二人の影が大きく砂の上に映っていた。


「明日」
『………明日?』

ヒューバートの言葉をおうむ返しし首を傾げる。

「明日、ラムダを倒すことができたら貴方はどうするんですか?」


海を眺めながらそう問うヒューバートに私は何と答えればいいか分からなかった。

『私は……、』

私は一応出身はバロニアだ。別に軍に属しているわけではないし、何かと人助けとかにも向いていない。

『うーん…。シャトルでも借りて、色々とまわってみようかな』

「……そうですか。貴女の場合、計画性の無さから見て、すぐにやめてしまいそうですね」
何よ。折角考えて、考えて思い付いた事を言ったのに。そう言いたかったが止めた。


いつもと違うヒューバートにつられて私もおかしくなってしまったのだろうか。

『ヒューバートは?』

「僕は、本国に帰ります。ラントは兄さんに任せることになりますね」



『………』

そうなんだ。そうは言わずに海を見つめた。
ずっとラントに居たからヒューバートはラントにいるのが当たり前だと思っていた。私が初めて彼に出会ったのがラントだからだろうか。彼がストラタ軍の小佐ということを幾度と聞いたことがあったのに。

『なんかさぁ……、終わったら皆バラバラなんだね』
私も。ヒューバートも。

そういった瞬間、冷たい夜風が私達二人の間を通っていった。



『───……帰ろっか。明日も早いんだし』

寝坊してラムダを倒しに行けなくなったとかは嫌だしね。微笑みながら、砂ぼこりを払って立ち上がり、ラントのほうへ歩こうとする。


その瞬間。
私の動こうとする力とは反対に力が加わってバランスが崩れてしまった。原因はすぐに分かる。ヒューバートが私の腕を引っ張ったから。

『何』
そう彼の目をみて聞くと、彼は目を反らして俯いた。

「………すみませんでした」

『は?……いきなり、何』
いまだに握られている手に新鮮味を感じながらも再度問うと、顔を真っ赤に染められた。


「僕は、貴女のことを………、」

…………。


真っ赤に染められた頬。

その…、ありきたりな台詞。


……ま、まさか告白とかなんじゃあ!
ちょちょちょ、ちょっと待って!私、ヒューバートの事嫌いじゃないけど、絡むことがあんまり無かったからよく分かんないよ!!


友達からじゃダメかn…
「バカな人かと思いました」

『…………………は?』


今なんつった、この眼鏡は。
私に喧嘩売ってるんですか、買いましょうか?
つか、今の私の乙女の心はどうしてくれるんですか。いやいやいや…………。

ふ・ざ・け・ん・な

『もう、ヒューバートのバカ!私帰る!!』









どすどすと、まるでどこかの魔物のような足音を鳴らしながら、ラントの方へと帰っていく彼女を見えなくなるまで見つめながら僕は固まっていた。

あの時、僕は彼女が消えてしまうんじゃないかという錯覚に陥った。それはきっと……彼女が珍しく悲しんでいたからなのだろうか。



まるで消えてしまうかのようで
(僕は咄嗟に君の手をとった)




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