夢は強敵。正夢なら尚更ね!

中学三年の冬休み。サッカー部も引退、なんて口先では言っている三年生の私たちだが、ちょくちょく後輩たちの練習に付き合っている。いくら冬って言っても東京の冬は北海道や東北とは違って中々雪が降らないもんだからサッカー部もよくグラウンドでボールを蹴りあっていた。のだが、今日は天気予報の晴れとは大外れのどか雪。

一応今日の練習に付き合うのか円堂に連絡をいれてみたが流石に今日は行かないらしい。というより円堂の場合は受験勉強をしなきゃならないんだとか。後ろで円堂のママさんが勉強勉強と嫌な単語を繰り返している声が拾えた。教えてくれてありがと、と一言残し静かに切るとインターホンの音が部屋まで聞こえた。
それとともに母さんがはいはいと軽い返事を返しながらドアの向こうの相手と話始める音が聞こえた。
声までは流石に二階の私の部屋までは届かない。
話終えたのか静かになった玄関先。一体誰が来ていたのだろう。夕食の時にでも訊こうと思い、私はとりあえず暖かい布団の中に潜り込んだ。寒さに慣れていないから、なんて言い訳付けてでも今は無性に昼寝日和な感じがしたのだ。


夢の中の私はそれはもう楽そうな服装で、どこかの見慣れない機械が沢山ある施設に居るようだった。
夢だと理解できるのはガラス越しに写る自分の姿が中学生三年とは言いがたいほど大人びているから。綺麗、と自分を誉めるのはなんだか気恥ずかしいから言わないが私も月並みの胸は手に入るらしい。いつもペチャパイと言われている私から見ればこれは重要でとても素晴らしい成長なのである。

「名無し」

くすぐったいあの声の主は私の大事な人。
去年の夏、リカにそそのかされて大声あげて告白してしまった私の大失態の中から生まれた奇跡。苦笑した雷門のエースストライカーの口が承諾することを今でも脳裏に焼き付いている。あのときの顔も声も周りの反応も死ぬそのときまで忘れない。認知症になったときの為にも日記だって残したんだから。

私の回想はここまでにして、振り返るとそこには彼が豪炎寺が確かに居るのだがどうも何かがおかしい。
何がおかしいって髪型は勿論、ちょっと私には着こなせないかなって感じのスーツにどこか寂しい目。
そう、その目。その目は私の嫌いな豪炎寺の目。仲間から離れて一人で考えているとき行動しているときによく見る目だ。

『私、一緒に居るよ?』

一瞬彼の目が据わったのを見逃さなかった。そしていつもの豪炎寺の静かな笑みを浮かべてくれる。私も声に出さないで微笑むと優しい手つきで私を抱き締めてくれた。

そう言えば私も豪炎寺も結構大人びているけど、どこまで進んでいるんだろう。あ、勿論恋愛的な意味でね。世の中パラレルワールド。一つの選択ミスで未来は変わるって何かの本には書いてあったけど夢の中の私は一体……、まさか…私の純潔とかえっと、そういうところまで進行していたりっ!?

私のような知能の低い奴は物事を考え始めるとダメなよう。現実では[手を繋いで下校]までしか進んでいないのだからこれ以上この夢を見れないと自分に言い聞かせて私は豪炎寺の手をとった。

「名無し?」

『豪炎寺。私の頬をつねるか私の峰打ちにファイアトルネードを打ち込むか、選択肢をあげるからやってちょうだい』

案の定、開いた口が塞がらなくなっている彼が居た。いいからやってと少し声のトーンをあげると困惑した顔で私の頬をひねり始める。人間恐い夢を見たとき急に目を覚ますことができるでしょ。お化けに追いかけられる夢とか高いところから落っこちる夢とか。それとおんなじ要領でやってもらったのだがどうやら効果覿面。目の前に居た髪を下ろした豪炎寺から私のよく知るツンツン頭の豪炎寺に姿形が変わっていった。よく見れば施設のような場所も私の部屋へと変わっている。
時計を確認すれば円堂に電話をかけたあの時間から二時間ほど経っているらしい。というか時間なんて問題じゃない。

「おはよう。よく眠れたみたいだな」

『時間的にこんにちは!つか変な夢見ちゃうわ起きたら豪炎寺が居るわで私のノーミソが追い付いていってないし!』

「名無しののおばさんに一言言って上がらせてもらったんだが。部屋に入ったときにはすでに眠っていた」

可愛い寝顔だった。と続けて言うもんだから私はなるべく彼に耳を貸さないように布団に隠れて耳をふさいだ。ああやってからかい始めたのは昨日今日の事。一体なんの心境の変化だ。いや、むしろ私をからかって楽しんでいるのか。

「名無しの。布団から出てきてくれないか」

『豪炎寺が私を名前で呼んでくれたら』

「……名無し。出てこい」

もぞっと布団から顔を出すと呆れ顔の豪炎寺と目があった。なんだか子供扱いされているみたいでムカついたから布団に被さろうとするがその前に彼の力で引き剥がされてしまう。

『今日の豪炎寺…なんだか意地悪』

「人には名前で呼ばせて自分は苗字呼びか?」

『やっぱり今日の…修也、意地悪だ』

恋人という枠に入って手を繋いで。ここまで進んだ私たちは今日、名前で呼びあうということを学んだ。また少し豪炎寺…、修也と仲が深まった気がする。
夢の中で寂しい目をしていた彼だけど私と仲違いしない限りはずっと一緒いる。むしろこんな私だけど居させてほしい。いつか夢の中の二人のように抱き締められたり…その先の…、


「名無し…どうかしたのか?」

『ううん!これ以上は刺激が強いからゆっくり進まなきゃいけないなって思ったの』

「これ以上って?」

『!』

墓穴を掘ったと私は後悔し、豪炎寺が訊き出そうとするもんだから逆になんで私に会いに来たのと言えば眉を下げていきなり落ち込む彼が居た。





表情の理由は夢のせい
(……夕香が髪をピンクに染めている夢を見たんだ)(夕香ちゃんが?…それで?)(それだけだが…)(へ、それだけで落ち込む?)(夕香が将来不良な奴等と絡んだりしないかって心配じゃないのか!?)(いやいやいや、夕香ちゃんがそんなことするはず─)(俺自身が恥ずかしい格好をしていたことより夕香が髪を染めることのほうがショックだった…、)(なんて返せばいいのやら…)

2012.2/20


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