感興がわく。

テセアラの神子はとても女好きである。

なんて風の便りを聞いたが全くもってその通りだった。というのも、依然に新聞で見たテセアラの神子様らしき人が今現在、次から次へと女性へと話をかけては何かしらの品物をもらっているのだが、これではただの物を集っているだけにしか見えない。

第一なぜ女性はみんな彼に物を差し上げてしまうのだろうか。疑問がふつふつとわいてしまったが、その代わりに持ち物を渡さなければならないのなら私は話をかけるわけにはいかない。

「なーなーそこのお姉さん」

私の前を歩く女性が声をかけられた。逃げるとするなら今のうち。偉大なる神子様を拝見できた嬉しさを胸に、私は会話をしている二人の脇を素知らぬ顔で通りすぎた。

「あらら。オレ様嫌われちまってるかんじ?」


街から抜ければ林が見える。ここは魔物が出るから街の皆は寄り付かない私だけの秘密の場所。
男の子らしくいうならば「秘密基地」。
神子様御一行は今日、街の方へと停泊してしまうのだろうか。手持ちが悪いと言うわけではないけれど家族も親しい者も全くいない独り身にとってお財布関係は大事で重要な問題。出会ったりすれば何かをあげなくてはならないというのなら一晩くらいこの薄暗い林の中で過ごすのも悪いことではない。一応、独学ではあるけども武器は扱えるわけだし。秘密基地に忍ばせてあるフライパンとお玉。最近巷で闘う料理好きの女の子が増えているんだとか。寝坊助な知り合いにはフライパンとお玉で奏でられる不協和音。死者の目覚めを行えば良いらしいとこないだ知り合いから伝授された。

「なーゼロス。本当にこっちになんかあんのかよ?」

「【なんか】じゃなくて【だれか】って何回も言ってんでしょーよ。……確かにこっちに向かった気がすんだけどな」

木々の隙間から覗けば赤々しい男コンビがなぜだかこっちへと向かってきていた。一人の男は知んないけれどもう一人はテセアラの神子様。なんでそんなに人から只でさえ不況になりつつあるというのに物品をぼったくりたいと考えるのだろうか。

「みーつけた」

語尾を上げて神子ゼロス様は私の手のひらに大きく、それでいて細い手を重ねた。もう一人の男性は私を見て呆れたのか、もうゼロスはリフィル先生かしいなじゃなきゃ対処できねーなと頭を左右に振りながら踵を返した。いや、この人連れて帰って。

「麗しのお姉さんはどうしてオレの前から消えてしまったんだい?」

意外と近い神子様との距離に戸惑いを隠せない私は少しだけ彼の笑いかたに違和感を感じた。第一印象のおちゃらけた感じが大多数を占めているせいか遠目では何も分からなかったけど、この人…微笑みかたが寂しい。声で性格で身ぶりで明るく振る舞っているが目の底ではいつもひとりぼっちのような。そう、寂しい瞳をしているんだ。

「ん、これは?」

「神子様が何に悩んでいるのか知りませんが、一人というものは本当に寂しいものです」

きっと何に使えばいいのか分からないだろうフライパンとお玉を神子様の手へと渡し、私は彼から距離をとった。あの寂しい目はひとりぼっちの自分を見ているようでとても辛くて。一刻も早くこの場から立ち去りたくて。





でも不思議と彼が気になって。それは彼もおんなじで。
((多分皆さんが神子様にプレゼントをするのは神子様は一人ではありませんよと教えてあげたいのだと私は思います))((フライパンにお玉…って。一体何を作れってんだ?))((それにしても似ている。ヒトってやっぱり寂しがり屋なんだな))

2011.12/13


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