『宍戸くん』
あまり騒ぎにならなさそうな音量で声をかけた。そしたら彼はウザそうに振り返る。全く、この現状に飽き飽きしているのは私だって一緒だよ。愛想笑いで手を小さくあげると、一瞬目をぱちくりさせて、もとの女子とは関わりたくないオーラを出しながらなんだよ?と答えた。
『日本史のノート』
「は?」
もしかして…というよりはやっぱり、宍戸くんは今日が日本史のノートの提出日だってこと知らなかったみたいだ。まぁ、言われたときにはぐっすり寝ていたからね。後で誰かから聞いていたんだと思ってたんだけどな。私は日本史のノート。と手を差しのべてもう一度同じことを繰り返す。
「やべっ、提出日!」
少々青ざめた顔をした彼はそう言い残して部室へと消えた。はぁ…ため息しかでないわ、本当。ふと思い出すさっきの宍戸くん。授業中は気だるそうなのが基本スタイルなのにテニスをしているときはすごく楽しそうなのね。これぞスポーツマンな男の子って感じ。
「名無しの、悪ぃな!」
『ううん大丈夫。…じゃ、練習頑張って』
面と向かって苗字を呼ばれたのは初めてかもしれない。私は受け取ったノートを先生のもとへと届けるために踵を返した。
この人は悪い人じゃない
(スポーツマンシップに乗っ取っている人はちゃんといるようだ)(まあ、テニスってよく分かんないけど…楽しそう)
2011.10/23
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