いつの間にか眠っていたようだ。目を開ければそこは自分の部屋。机があって漫画があって三日坊主の日記があって。
優しさに目が霞んだ
どうして私はここにいるんだろう。私はなにをしていたんだろう。小首をかしげて上体を起こした。音が無いその空間。今が何月何日で何時なのかは分からなかった。この部屋に時計は無い。【死】という恐怖を感じたくないから撤去したのを思い出した。
「お。目を覚ましたのか」
その声の主は私が恋をしてしまった相手。扉がキイイと音を鳴らして開いた。『モモシロくん』と声に出せば、彼は中へと入ってくる。
そして彼を筆頭に母さん父さん、友達だった人々。色んな人が私の部屋にと足を運んでくれた。皆がみんな、気持ち悪いほどきれいな笑顔を向けて。
『みんなしてどうしたの?』
不安になる。まさか家の中にまでいじめを仕掛ける気だろうか。いや、確かに皆を突き放したのは私だ。だけど母さんも父さんにも、勿論モモシロくんにも嫌われる動機が分からない。もしかしてこんな私に嫌になったんだろうか?
「名無しの…、」
『…っ!』
肩をがっしりとモモシロくんに掴まれた。ああ、私が何かしたのね。それならそうと言ってくれればいいのに。暗くなる私の表情とは一変、モモシロくんは無邪気な笑顔を見せていた。
「ドッキリ大成功って言ったら怒るか?」
『……は、ぁ?』
ドッキリ。って騙したってこと。え、なに。どういうこと。きょろきょろ周りを見たら、みんなが「ドッキリ大成功!」と手に持っていたクラッカーを次々に鳴らした。
『どこから、ウソ…』
「もとからよ。あなたが一週間後に死ぬっていうその話からウソだったの」
「でも、まさか私たちを嫌わそうだなんて考えるのは無いんじゃない?」
「ホント。いくらなんでもそれはひどいよー」
私が突き放した人たちも今までと変わらない笑顔を見せてくれる。母さんも父さんも静かに微笑んでくれている。
そしてモモシロくんも。
『あれ、モモシロくんは……』
「ん、なんだよ」
なんでそんな悲しい顔をしているの。とは口が裂けても言えなかった。でもどうしてなの。嬉しかった私の心が貴方の表情そのひとつで冷えきってしまった。
「おい、名無し!」
目の前のモモシロくんとは違うモモシロくんの声が聞こえた気がした。
- 140 -
[*前] | [次#]