多分、私がもうじき死ぬ。だなんて言ったらモモシロくんは心配してくれると思う。この人は、他人に優しすぎるんだ。生きることを希望にしたくなるほどに。
本音は『生きたい』
『それより学校』
「あ?…あー大丈夫。いま放課後だし」
そう言って時計を見せてくれた。三時四十七分。確かに下校時間は過ぎているがここが学校に一番近い病院だったとしてもけっこうな時間がかかるはず。やっぱり授業を受けていなかったんだと思うとためいきしかでない。
結局私は迷惑かけてる。
『部活は?』
「えーっと、今日は部活ないんだよ。ああ、絶対にない!」
『………そ、』
ダメだ。彼は頑張って嘘をついているのに笑いそうになっている私がいる。正直者が嘘をつけると思っているのかな。
恋をすれば長生きできる。なんて誰が言ったんだろう。生きても意味がないのに友達を捨ててしまったのに。モモシロくんが隣にいてくれるんなら生きたいと思ってしまう。
「名無しのの下の名前ってさ名無しって言うんだな」
『何を唐突に』
確かにモモシロくんには言ったことがなかったかもしれない。まあ濡れ女呼ばわりされるのがイヤだったから苗字だけ教えたわけだったし。
「俺は桃城武」
『はあ。意味がよく分かんないけどモモシロくん』
「……やっぱ違う奴だったのかもしんねーな。しんねーよ」
彼の友達と私の名前が一緒だったらしい。ほうほう。確かに私も【タケシ】って名前には聞き覚えがある。小学生の頃はよく遊んでいたけれどいったい今はどうしているんだろう。
それからも会話が尽きることなくモモシロくんがペラペラと喋っていた。なんだよ、そんなに優しくすんなよお馬鹿さん。
「そんときよ、海堂の野郎が」
『モモシロくん。時間』
「ん…ああ、もうこんなに暗くなってやがる。じゃあ俺帰ることにするわ。絶対に安静にしてろよ」
じゃあなと手を振って彼は病室から消えた。音がなくなった。とたんに物寂しくなった。
『好き、です』
彼が居なかったら言える本音。
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