『テニス部…は、騒がしいな』
現在地テニスコート。自分の言葉はテニス部を見ていた女子たちの甲高い声で消されてしまった。ちなみに捜している人物はまだ来ない。
どうも、一日ぶりですね
私に友達と呼べる人はもういない。だから名も知らない我が担任に聞いたのだ。昨日のジャージの彼の名を。そして自分は洗い終えたこれをもって今、ここにいる。人々の視線が痛い痛い痛い。これを差し入れかなにかだと思っているのだろうか。勘違いしないでいただきたい。
きゃあきゃあと噂されつつあるテニス部に自分が興味なんてもつはずがない。
もつはずが…、
「あれ、昨日の濡れ女じゃねーか」
濡れ女。これは自分を指した言葉でいいんだろうか。振り返れば、昨日のジャージの男。たしかオモシロくん。担任はそれらしいことを言っていた。
『オモシロくん』
あっていると思い、言の葉にのせれば固まる空気。なんだ、なにがあったんだ。
「俺の名前は桃城だっつの。ったく、千石さんとおなじノリかよ」
センゴクサンとはいったい誰だ。嫌悪の視線を送る女子とあきれているモモシロくんを交互にやるがいっこうに話が進まないので紙袋を差し出した。
『ありがとう』
中身は自分なりにたたんだ青学ジャージ。個人的にはモモシロくんってバスケ部とかサッカー部みたいな激しく人とぶつかり合うような部活に入っているんだと思っていた。なんて本人にいったらどんな反応を見せてくれるんだろう。
彼はその紙袋を受け取り「わざわざ洗ってくれたのか、うれしーな、うれしーよ」と笑ってくれた。一瞬胸が大きく高鳴った気がした。それは今の自分にはあってはならない感情。ヒトって優しくされるとその人のことが気になるものだよってもともと友達だった人がいっていたけれど、それは本当なのかもしれない。
大丈夫、まだ大丈夫。
「気になる」という感情はまだまだ曖昧。一目惚れなんて死をまつ私にはいらない感情。
『じゃあ朝練頑張って』
そう言ったらきれいな笑顔を見せてくれた。
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