腹の音は生きてる証拠

『いらないですよ、汗くさそうだし』

保険医はまだ来ない。自分の言葉に彼は青筋を浮かべた。ああ、やはり失言だっただろうか。そんな二人に授業開始のチャイムが降り注いだ。





腹の音は生きてる証拠





ただいま一人。いまだここに住み着いているだろう人はやってこない。髪の毛は乾き、セーラー服も大体かわいた。自分は受けとるのを断ったはずのジャージをたたみながら名前を聞いておけばよかったと後悔する。

時計の針が一を指した。怪我をしていた彼は結局自分が手当てをしてあげることに。たまには人のためになることをやってあげてもいいかもしれない。まぁ、そんなことを思うのも今だけだろうけど。


「あ」

『……どうも』

彼はまたやって来た。両手にパンを持ってやって来た。不在だと分かってやってきた。何のようだ、まったく。

「まだいたのかよ」

ドサッとベッドに腰かけていた私の隣に座る。ドサドサッとパンを自分と彼の間におく。そんな彼に『またきたのかよ』と返した。

カチリカチリと規則正しい時計の針。どくんどくんときっとなっているであろう自分の心臓。きっと隣にいる彼の心臓も規則正しくなっているのだろう。

「ほら、やるよ」

渡されたのはコロッケパン。たしか購買でも人気のある商品だったはず。受けとるべきだろうか、それとも断るべきなのだろうか。そんなときに空気を読まない自分のお腹の音。

ぐうううう。ああ恥ずかしい。ほら、隣にいる彼が大笑いし始めたじゃないか。

『あ、ありがとう』

この部屋に響くひとつの声。しかもその声は笑い声。ある意味騒音ともとれるのだけど、今は、そんな騒音が心地よく感じていた。





『とても美味しかった』
食べ終わった私の隣では6袋目のパンを食べていたあなた。


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