『先生、いますかー』
不在希望。いなくてもタオルは借りるけども。自分は鍵がかかっていない無用心すぎる保健室の扉についていたカードを「います」のマークから「不在」のマークにかえて、水滴をかるく落としながら消毒液の臭いがする部屋の中へと入った。
保健室での出会い
誰もいない。なんの声もしない。自分の判断は正しかったのかもしれない。先生は不在。自分は健在。とりあえず真っ白なタオルを探すことからはじまった。色々な薬品の入った棚。混ぜて飲めばこんな世界から別れることだってできるだろう。先生に迷惑をかけるからそんなことはしないが。適当な引き出しを開ければタオルが登場。自分はなんとラッキーな人間なのだろうか。
「センセー、怪我しちまったんスけどー」
先生は不在と扉で教えたはずなのに。そんな意を込めてため息を洩らすと視線を感じた。自分は構わず白いタオルを頭にのせたまま、視界を遮るためにベッドのカーテンを閉めた。
「あんた、なんで濡れてんの?」
彼の声が興味津々だと言うように洩らしていた。濡れていることを察してほしいが、自分には黙秘権と言うものも存在する。とりあえず静かに頭を、髪の毛をぐしゃぐしゃと適当に水滴を取り除いた。上着については先生が来てくれるまでがまんするしかないだろう。まったく、セーラー服の中学校なんかに入学しなければよかった。
「ほら」
カーテンの隙間からだされたジャージ。SEIGAKUの文字。何処だかの部員なんだろうか。そう考えられたが、今、この状況でジャージを見せつけられたのはなぜか。普通の対応なら風邪をこじらすかもしれないから羽織れ。とのことだろうか。
『なんですか?』
そう問うと、返ってきた言葉が震えていた。
「最初の一声がそれかよ」
くつくつ笑う彼はカーテンを開け放った。
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