たんぺん | ナノ
除夜とふたり



ふ、とため息にも似た呼吸を吐き出すと、眼前が白く霞んだ。
暗闇に慣れた視界は、容易にそれを捉える。
その水蒸気の向こうに見えるのは、漆黒の闇に覆われた木々の集まりで、辺りに人の気配は感じられない。

「さむい……」

思わず呟き、ふる、と身震いをして手を擦り合わせた。だが暖のない今、そんな事であたたまる訳もなく、コトはその場に立ち上がった。
木が軋む音をたて、紅葉で脱落しなかった葉が僅かに視界を遮る。
それを黒い手甲を着用した手で適当に押し退けた。
拓けた眼前は、しかし闇が支配したままだ。当たり前だと思う旁で気分が沈んでいく。
暗い寒空の下、じっとしている事が本日の任務。
その場を移動する事も出来ず、今自ら熱を生み出す方法といえば上下運動くらいのものだ。
コトは仕方なくその場で屈伸をしてみるが、案の定、特に熱へ成り得るものではなかった。

今日は、本当についていない。
何故一人、こんな所で過ごさなくてはならないのか。

想い返すのは二日前。コトの想い人、カカシから年越しを共に過ごさないかと提案があった。
彼は数多の女性と関係を持つ身、行事に彼から誘うなど、むしろコトを選ぶなど珍しい。
喜ぶ旁でいぶかし気に何故コトなのかと問えば、コトの家が一番正月らしいから、という返答だった。

わからなくもない。

古めかしい、一人で住むには大きい一軒家。居間の延長上には縁側。畳の上に石油ストーブ、こたつにみかん。
なんとなく、雰囲気が正月向けの物件だ。
互いに家族もおらず、任務もない。コトは珍しく笑みながら合意した。


それなのに今日、大晦日の昼に、だ。
年越しと正月の準備を進める中、突然召集があったかと思えば、夜間の国境警備を言い渡された。
何でも、任務にあたるはずだった数名が前の任務で重症を負い、行けないのだと言う。
年越しに被る時間帯だったため断りたい気持ちでいっぱいだったが、里長から申し訳なさそうに依頼されてしまえば仕方がない。
家族のいる者よりも、独り身の者の方がこの日の任務に向いている事も知っている。
だからコトは里のためだと引き受け、従事した。

しかし実際に任務にあたってみれば、ただ、暇である。そしてただ、寒い。
そうすると、考えてしまうのは、本当は今ごろ……と、叶わなかった時間のことに終止する。

吹き抜ける風はいよいよ厳しさを増し、剥き出しの頬は痺れてきた。
手甲をしているとは言え、手の感覚はほとんどない。
寒さには慣れているが動けないのでは話は別だ。
がたがたと震える身体を持て余していると、微かに人の気配。

コトは殺気にも似た気配を出して身構えた。
日付の変わる時間帯、敵か、見方か、正規の道から迷った通行人か。
瞬時に見分けなければならず気配を探るとチャクラの放出は感じられず、しかしよく知る者の気配に似ていると気が付いた。
だがまさか、と首を振る。こんな所にいるはずがない。
そう思っていたのに、

「こんばーんは」

間違いようもない間伸びした、低い声。
一時も忘れる事ができない、ひとの。

「……カカシ、さん」

コトは呆然と目を見開いたまま、動く事も目をそらす事も出来ない。
ただ真っ直ぐ見つめる先には、闇から出てきた銀髪の、男。

「何故、こんな所に…」
「アンタにすっぽかされたから、暇で暇で。からかいに来ちゃった」

肩をすくめて、カカシは笑う。

「…いきなりすみませんでした。ですが、式は飛ばしたはずです。事情をご存知なら、待機中ですのでそういう事は、ご遠慮願います」



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