たんぺん | ナノ
除夜とふたり2
任務中という身。それにからかいに、なんて不本意な事を言われ、なるべく堅苦しく告げれば、カカシはく、と笑う。
「じゃあ俺に触って」
「……え」
意味を図りかねて首を傾げると、カカシは手を差し出してきた。
「分身だから、すぐ消えるよ。嫌なら、触って」
さあ、と言わんばかりに眼前で手をかざされて、コトは後ずさった。
本当に、分身なのだろうか。
疑わしいが、確かめて、もし本当だったなら消えてしまう。
冷や汗をかきながら、コトは尚も枝を伝って後に退く。
二人分の体重の乗ったそれが僅かにしなるが、カカシは関係ないとばかりにその分を詰めてくる。
じりじりと移動して、ついにコトの背が木の幹に触れた。
逃げ場のなくなったコトは、威嚇に声を張り上げた。
「ほ、本体はどこですか?分身だけで国境まで来られるはずありません。近くに本物がいるはずです」
確信に近かった。いくらカカシと言えど、見ずに操るなど無理な話。
すると、案の定、
「あーあ、バレちゃった」
カカシは面白そうにコトを見る。
しかしそこで退くのかと思えば言葉とは裏腹、更に距離を詰められ、背後の木とも前にいるカカシとも、もう距離がない。
更に追い討ちをかけるように顔の両脇に手をつかれ、閉じ込められた。
「…カカシ…さん…」
「俺を探してごらん。……出来るなら、だけど」
僅かでも動けばカカシは消えてしまう。
でも、このまま任務を放り出しておく訳にもいかない。
互いの熱が伝わりそうなほど近い距離。
どちらを取るか。
からかわれて、いるのだろう。
だったら。
コトは躍起になってカカシに抱きついた。
職務放棄にさせてたまるか。
勢いよく腕を回せば、白煙を残してカカシが消える。
はずだった、が。
「……あ…れ?」
目の前には、カカシ。
ちゃんと実体のある、カカシ。
ぺたぺたと触れても手は通り抜けず、ぬくもりさえある。
「……影分身?」
ぼそりと呟くと、前から伸びてきた腕に肩を抱かれた。
そこから背へ回り、しっかり抱き込まれ、体が密着する。
そしていつ口布を下げたのか、耳たぶを食みながら、耳元でカカシが囁いた。
「残念ながら、本物」
「…………っ…」
びくりと反応したコトを面白がるように、カカシは喉の奥でくすくすと笑う。
「また騙した…んですかっ…」
「忍は裏の裏をかけ、ってね」
「〜〜〜〜っ」
声にならない悲鳴を上げて、コトは手を伸ばして離れようと試みた。
だが抜け出せずにもがき、思い出した事を苦しまぎれに告げた。
「…も…もうすぐ交代がきますからっ」
交代時間は深夜零時。今は日付が変わる少し前。
こんな場面を誰かに見られてはまずい。
暗に離れろと言ったのだが、カカシの力は更に強くなる。
「大丈夫。それ俺だから」
「……はい?」
思わず動きを止めて聞き返す。
「…今、なんと?」
「だから、アンタの交代要員は、俺」
「……待って下さい……からかいに…来たんじゃ、ないん…ですか……」
思わず尻すぼみになり、瞳が揺れてしまう。
こんな事で動揺していては忍失格だが、すぐ側にある気配とぬくもりに鼓動が抑えられない。
「まさか。黙って出てきたら里抜けになるでしょうよ。それにそんな事じゃ、外出許可なんか出ない」
よく考えてよ、とたしなめられて思わず彼の肩口に顔を埋め、赤面したその時、遠くの方で鐘が鳴った。
重く響く音は小さいが、森の中を反響して闇に溶けていく。
「鳴り始めたね」
「……はい」
里から出ずる、除夜の鐘。
まさか抱き合ったまま聞く事になるとは思わなかったが、それもいいだろう。
もう年の瀬だ。
一年の終わりに、想い人と。
ぎゅうっと抱きしめれば、返してくれるぬくもり。
「ん、今日は素直だね」
「……年の瀬、ですから」
「なによそれ」
意味わかんない、と笑われながら、しばしの間、音に聞き入る。
一つずつ数をかぞえ、その数が増えていく。
52、53、54…
95、96、と続き、今年ももうすぐ終わるのだ。
そう思った時、唐突にカカシを呼びたくなり、コトは小さく呼びかけた。
「カカシさん」
「うん?」
聞き取って目を合わせてくれた、その顔を脳へ焼き付ける。
今年最後のカカシ。
見つめて少し微笑んでみたその時、最後の鐘が鳴った。
新年の、はじまり。
「あけまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
そのままの顔で言ってみれば、カカシの今年初めては意地悪な顔。
「おめでと。ま、よろしくするかどうかは、アンタ次第だけど」
「…………っ…」
こんな時にまで。
そう思ったが、放さないとばかりに強く抱きしめて、くぐもった声で告げた。
「が、がんばりますからっ」
「はいはい。じゃあとりあえず、今日はこのままで任務続行ね。朝までだけど」
「……えっ」
A HAPPY
NEW YEAR!
2010.1.7
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