お昼休み、みんなからの視線にいたたまれなくなって教室から出た私。
行く当てもないけど、とりあえず美術室に行ってみようかな、なんて思って美術室に向かう。
「あの…」
ガラッと教室を開ければ宇髄先生と女の人が3人、楽しそうにお喋りしていて、思わず固まる私。
「おー、名前じゃねぇか。どうした」
宇髄先生がそういうと周りの人たちが目を輝かせてこちらに近づいてくる。
「もしかしてこの子が天元様の言ってた名前ちゃん!?」
「かわいい〜!なんで一人占めしてたんですか天元様!」
「そうなるからだろ」
訳も分からずぎゅむぎゅむと抱きしめられ、頭を撫でられ、私は混乱する。
宇髄さんが再度私にどうしたか聞くのでようやく我に返る私。
「教室、すごく視線を感じて居づらくて…」
「あー…」
そう言って私のお弁当箱を見て納得したように椅子に座る宇髄先生。
私も解放されて椅子に座った。
「まぁここで食え、こいつらは俺の嫁だから気にすんな」
「恋する女の子の味方だよ」
そう言ってぐいぐい来るお嫁さん方に私はどうしたらいいかわからずオロオロする。
「つーかお前ら仕事サボってねぇで早く戻れ」
「はーい」
「名前ちゃん、よかったらまたお話聞かせてね」
そう言って出て行った3人。
私がぽかんとしていたら宇髄先生に声をかけられてハッとしつつゆっくりお弁当を食べ始める。
「先生」
「なんだ?」
「ただ髪の毛切っただけでなんで私こんなに見られるんですか」
きっと突然雰囲気の変わった私を見て調子に乗ってると思われているんじゃないか、そう思う。
そんな私に気付いてか、ため息をついてから私のお弁当から卵焼きを取って食べた宇髄先生。
「お前、ほんとに気付いてねぇんだな」
「…そんなことより卵焼き返してください」
私の好物だから取っておいたのに、と思いつつ宇髄先生は私をスルーして話を進める。
「元の顔はいいんだ、隠してて誰も知らなかっただけで」
「……」
「いや、誰も、ではないな1人は気づいてたみたいだが」
宇髄先生に言われた言葉にピンとこず、私は首を傾げる。
私を見て宇髄先生は笑う。
「まぁ気にすんな。そろそろ授業始まんぞ」
「へ!?あ、失礼します!」
時計を見れば5分前で、私はお弁当箱を急いでしまってから教室に戻る。
教室に入れば、ちらちらとこちらを見る男の子と、睨むようにこちらを見る女の子たちもいて、私は俯いて席に座る。
私はただ宇髄先生に勝手に連れていかれてこうなっただけなのに、なにがいけなかったんだろう。
そう思いながら背中に感じる視線に気付かないふりをした。
***
「あの子さ、ちょっと髪切っただけで調子乗ってるよね」
名前ちゃんが教室を出た後、そんな言葉が聞こえた。
朝の宇髄先生とのやり取りを見てきっとさらに加速したんだろうけど、俺はぐっと下唇を噛む。
好きな女の子が悪く言われてても何もできない自分が歯がゆい。
「もしかしてさ、宇髄先生のこと好きなんじゃね!?」
「は?マジ最悪それはないわ」
「1回締めとく?」
小声でも聞こえるその会話にどくどくと心臓が加速する。
「善逸?」
「んえ!?何!?」
「いや、焦ってる匂いがするぞ、大丈夫か?」
心配そうにこっちを見る炭治郎に笑ってごまかす俺。
なんとかして名前ちゃんを守りたい。
でも彼女たちの言うようにきっと名前ちゃんは宇髄先生が好きなのだろう。
そんなの、あの笑顔を見たらわかることだったんだから。
どうにかしてあげたい気持ちと、俺じゃダメなんだって気持ちが入り混じってぐちゃぐちゃになった頭をブンブンと横に振った。