次の日から、帰りのホームルームが終わって下校時間まで美術室で絵を描くことが日課になった。
宇髄先生も感心したように私の絵を見てくれるし、直したほうがいいところも教えてくれるからさながら授業をしているような感じではあるけど。

「お前、我妻のこと好きなのか?」

今日は横向くから横向きの顔を描けと、横向きのままとんでもない発言をした宇髄先生に私は持っていた鉛筆を落として顔を赤くした。
そんな私を見て笑いが止まらないのか腹を抱えて笑う宇髄先生。

「な、ななななんで…!」
「いや、ここ最近お前の絵を見て思った。アイツの絵だけやたら気合入ってんなって」
「ち、ちが…!」

私の背中をバシバシと叩きながら頑張れよなんて言うから私は俯く。

「…私みたいな根暗で、たいして可愛くもない女に好かれても迷惑ですよ」

そう言った私に叩いていた手をピタリと止めて私の頬をがしっと掴んで顔を上にあげる宇随先生。

「え、あの…」
「努力もしてねぇのに何言ってんだお前は。ったく、仕方ねぇ」

そう言って宇髄先生は私のカバンと自分のカバンを持って私を引っ張る。

「行くぞ」
「え、ちょ…どこにですか…!?」

下校時間近くだと誰もいない廊下をひたすら歩いて外に出ると、宇髄先生はどこかに電話してから、こちらを見る。

「言っておくが、俺は完璧主義だ。たとえ帰りに絵を見てるだけといえど他がダメだと気に食わん」
「は、はぁ…」
「お前を内から変える」

何を言ってるんだこの人は、と思いつつ、車の後部座席に押し込まれて車を走らせる宇随先生。

「ちょ、どこ行くんですか!?」
「安心しろ、変なとこじゃねぇ」

そう言ってしばらく車を走らせるとなんかめちゃくちゃおしゃれな建物の前に車を停めて私を引っ張り出すと、その建物に入っていく。

「場違いじゃないですか…!」
「今から場違いじゃなくなるから安心しろ」

そう言って中の人に私を預けて車に戻っていった宇随先生。
訳も分からぬまま私は言われた通りにするしかなかった。

***

朝、いつもと変わらない教室。
ただ、いつもと違うところが彼女が来ていないのだ。
いつもはこの時間に来るのに、と思いつつ少しざわついている廊下に違和感を覚える。
いつものざわつきとはちょっと違うそれに、俺は廊下を見る。
ゆっくりと教室に入ってきた彼女は視線を集めていることに気付いているのか短くなった前髪を押さえて下を向いて歩いていた。
鞄を机にかけて本を出して顔を隠すように読み始める彼女に声をかける。

「えっと、おはよう名前ちゃん」
「へっ?お、おはようございます…」

突然俺に声をかけられて驚いたように返事をしながらこちらを見る名前ちゃん。
昨日までそこまで手入れされていなかったであろう髪がボブの長さまで切られ、顔も見えないほどに長かった前髪は短くなって隠れていた顔が見えるんだけど。
その、彼女はこんなに可愛かっただろうか。
いや、元々可愛い子なのは知っていたけど、髪の毛で隠れていた時よりずっと可愛い気がする。

「髪、切ったんだね。似合うよ」
「え、あ…えっと…ありがとうございます…」

前髪で顔を隠そうとするもないことに気付いて少し顔を赤くしながら俯く彼女にフリーズする俺。
俺は目を泳がせている彼女にハッとして声をかける。

「なんで切ったの?イメチェン?」
「いえ、その…突然、連れていかれたというか…」

少し苦笑いしつつ廊下を見ている名前ちゃんに俺も廊下を見ると宇髄先生が立っていた。
名前ちゃんを見つけるとこっちに向かって歩いてくる。

「おうおう、あのまま置いていったからどうなったかと思えば、めちゃくちゃ見られてんじゃねぇか」
「スマホなければ迷ってましたからね…!あんなところに置いていくとかひどすぎませんか…!」

そういう名前ちゃんの背中をバシバシ叩く宇髄先生。

「いや、でもこれで好きな奴も振り向かせられるといいな?」

そう言ってニヤニヤ笑う宇随先生に、名前ちゃんはボッと顔を赤くした。

「ち、ちが…!私は別に…!」
「じゃ、今日も美術室来いよ〜」

そう言って手を振って出て行った宇髄先生に名前ちゃんは固まってから机に突っ伏して顔を隠した。
そうか、好きな人…好きな人!?
さっきの反応と、今名前ちゃんから聞こえるバクバクした心臓の音を聞く限り先程の話は本当なんだろう。
名前ちゃん、好きな人いるんだ。
そう分かった瞬間モヤモヤして、しばらく名前ちゃんの方を見れなかった。


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