しばらくいろんなお花を見ていたんだけど、名前ちゃんが思いの他楽しそうに優しい目で花を見てるから俺の心臓もバクバクと音を立てていた。
握った手は繋がれたままで、嫌がられてないか不安だったんだけど、名前ちゃんから聞こえる幸せそうな、嬉しそうな心地がいい音に俺は大分落ち着いていた。

「あ、ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」
「行ってらっしゃい」

ここで待ってます、と笑う名前ちゃん。
俺は少し名残惜しく手を離してトイレに行く。
用を足して、手を洗いながら今日の朝炭治郎に謝られたことを思い出した。
なんでも禰豆子ちゃんから、「それ、善逸さん名前ちゃんをデートに誘ってるのになんでお兄ちゃん一緒に行こうとしてるの!?」って怒られたらしい。
善逸が名前を好きだとは知らなかった、確かに最近の善逸は名前といるとき何か少し甘酸っぱい匂いがするなとは思っていた、なんて付け足された時には今すぐ炭治郎の元に走って胸ぐら掴んで恥ずかしいからそれ以上やめろと言いそうにはなったけど。
手を拭いてトイレから出ると、名前ちゃんのそばに多分先程まで泣いていたのだろう、目に涙をいっぱい溜めた男の子がいた。

「どうしたの?」
「あ、迷子みたいで…」

泣かないで、と自分のハンカチで男の子の涙を拭いている名前ちゃん。

「とりあえず迷子センター行ってみよう、お母さんいるかもしれないし」
「そうですね」

そう言って名前ちゃんは男の子にニコッと笑って手を差し出した。

「お母さん、一緒に探そう?ついてきてくれる?」
「…うん」

そう言って男の子は名前ちゃんの手を握る。
名前ちゃんは男の子の頭を少し撫でてから立ち上がる。

「すみません、我妻くん」
「いや、さすがに放っておけないよ」

そう言って迷子センターまで歩く。
そんなに遠くない距離にあったので、アナウンスを掛けてもらって、心配そうな音を出している名前ちゃんを見て俺は言う。

「とりあえず見つかるまではここにいようか」
「…はい」

名前ちゃんは男の子に今日はお母さんと2人できたの?とかお花好き?とかたくさん話しかけてて、男の子も少しだけ笑顔で名前ちゃんと喋っていた。
しばらく待っているとバタバタと走ってきた女性。
男の子も駆け寄ったから確実にお母さんだろう。
係の人にこの方たちが連れてきてくれたんですと言われてお母さんはペコペコと頭を下げる。
ふと、男の子が名前ちゃんに近づいてきて先程からずっと持っていた花を名前ちゃんに差し出す。

「おねえちゃん、これあげる」

男の子がそう言うとお母さんはびっくりしたように男の子に言う。

「それ好きな子に渡すって言ってたじゃない」
「おねえちゃんのこと好きだから」

ニコニコと笑う男の子に、お母さんがもらってやってくださいと言うので名前ちゃんはしゃがんで男の子に目線を合わせてから受け取る。

「…ありがとう、またね」

そう言って名前ちゃんは男の子の頭を撫でる。

「ばいばい!」
「本当にありがとうございました」

親子が出ていって、俺は名前ちゃんを見る。
先程まで男の子からもらった花を見て微笑む名前ちゃん。
そんな名前ちゃんを見て、少しだけモヤモヤとする俺。
どうやらあんな小さな子にヤキモチを焼いているらしい。
俺は名前ちゃんの手を握る。

「あ、我妻くん?」
「来て」

そう言って俺は名前ちゃんをグイグイ引っ張りながら花売り場に向かう。

「ここでちょっと待ってて」

そう言ってから名前ちゃんから離れて店員さんに話しかける。

「すみません、この花で花束作ってください」
「分かりました!」

この花は以前名前ちゃんが学校で1番好きな花だと教えてくれた花だった。
店員さんは慣れた手つきで花束を作ってくれて、俺はお金を払って名前ちゃんの元に戻る。

「あの、その花…」

戻ってきた俺が持っていた花束を見て驚いている名前ちゃん。
俺は少し息を吐いて名前ちゃんを見る。

「俺も名前ちゃんが好きだからこれ、あげる」
「へ…」

そう言って花束を差し出すと名前ちゃんは固まる。

「返事はいつでもいいよ」

きっとすぐは困るだろう、そう思って出た言葉だった。
その言葉を聞いた名前ちゃんは花束を受け取ってから顔を赤くしてぎゅっと目を瞑った。

「わ、私も…!我妻くんが好きです…」
「え…」
「好きって、会えたら嬉しいとか胸がキュッとするそういうことですよね?」

それなら、私もですとはにかんで笑う名前ちゃんに俺は一瞬固まったものの名前ちゃんをグイッと引っ張るとぎゅっと抱きしめた。

「へ!?あの、我妻くん…!」
「…俺と付き合ってください」

静かにそう言えば、名前ちゃんは小声で、よろしくお願いしますと呟く。

「うん、よろしくね」
「恥ずかしいので…離してもらっても…」

そう言って花束を持っていない方の手で顔を隠す名前ちゃん。
俺は少しだけ体を離して名前ちゃんを見る。

「ねぇ、俺ら恋人になったんだからさ、敬語やめようよ」
「え、」
「あと名前も。俺も名前って呼ぶから」

俺がそう言うとボンッと一気に顔を赤くした名前。

「ぜ、善逸…くん…」
「……」

じっと見つめると視線に耐えきれなくなったのか俯く名前。

「好きだよ名前」
「、私も、好き…善逸」

小さい声でその後に俺のことを君付けしたけど、まぁ聞こえなかったことにしようかな。
俺は名前の頬をするりと撫でてから短くキスをする。

「え…へ、?え…?」
「へへっ…行こうか」

満足気に笑ってから名前の手を握って園内を歩く。
チラチラとこちらを赤い顔で見る名前にたまに視線を送れば恥ずかしそうに笑う名前。
周りに咲く満開の花たちが俺たちを祝福してくれているかのように風でゆらゆらと靡いていた。


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