「…いい天気」
ここは中高一貫キメツ学園。
私は高校一年の苗字名前だ。
小さい頃から花が大好きで、園芸部に入っている。
園芸部といっても基本的に幽霊部員が多く、作業しているのは私だけだったりする。
それでも好きなお花を勝手に植えたりして結構自由に活動しているので文句はない。
そもそも土を弄るのが大好きなのだから一切の文句はないのだが。
「お水あげに行こう」
ここまで天気がいいと土が乾いてしまう。
お昼ごはんも花を見ながら食べようとお弁当を持って中庭に行く。
友達も、好きだねぇと言って見送ってくれた。
穏やかな風も相まって、本当に気持ちがいい天気だ。
私は持ってきていたお弁当を広げて食べる。
1人暮らしの私は少しでも節約しようとお弁当を作っている。
我ながら上手く出来たお弁当を早々に食べ終えて、さっそく水を撒き始める。
「…ん?」
ゆっくりと花壇のそばに落ちているものを拾う。
これは、お財布だ。
「ど、どうしよう…きっと困ってるよね…」
きょろきょろと辺りを見回すが財布を探しているような人はいなかった。
私はごめんなさい、と心の中で謝りながら財布を開ける。
カード入れのところに学生証が入っていたので私はそれを確認する。
「竈門、炭治郎くん…」
クラスは丁度私の隣のクラスだ。
ただ、今日は体育があって授業の間の放課に渡せそうにない。
私はごめんなさいと帰りに渡すことにして、鳴り響くチャイムを聞いて慌てて教室に戻った。
***
帰りの時間、HRが終わって急いで隣のクラスに行くと、隣のクラスはもうHRが終わっていたらしくちらほら帰っている人がいた。
扉の前でどうしようと困惑していると、どうかした?と声がかかる。
「ひっ…!」
「ああ!ごめんごめん!そんなに怯えないで!?誰か探してるみたいだったから…!」
すごく髪の毛の目立つ人に話しかけられて、驚いてしまったけど、なんだかいい人そうだ。
私はドキドキと大きな音を立てる心臓を落ち着かせるために深呼吸をしてから話しかける。
「えっと、竈門、炭治郎くん。いますか…?」
「炭治郎?炭治郎なら帰っちゃったよ。はっ!?まさか告白の呼び出し!?」
「ち、ちが!」
私は慌てて財布を取り出して説明する。
「なぁんだ、危うく炭治郎を殴る所だったよ」
「は、はぁ…」
にこやかに言いながらちょっと待っててとカバンを持ってきて私に駆け寄ってくる。
「一緒に行こう。俺場所知ってるし、炭治郎もきっとその方が喜ぶから」
そう言って歩く彼に着いていく私。
別に渡しておいてくれてもよかったのだけれど、と思いつつも何もいえない私はおとなしく着いていく。
「君、隣のクラスの苗字名前ちゃんだよね?」
「へ!?あ、そうです」
「俺、我妻善逸って言うんだ。よろしくね」
そう言ってにこやかに笑う彼は竈門くんの家に着くまでいろいろなことを話してくれた。
どうやら竈門くんの家はパン屋さんらしく、お手伝いをするために急いで帰っているのだそう。
偉いなぁ。
そんなことを話していたら、出来たてのパンの香りがするパン屋さんについて我妻くんが扉を開ける。
「いらっしゃ、あれ、どうしたんだ善逸」
「なくしたって騒いでた財布、見つかったみたいだぞ」
慌ててぺこっとお辞儀をすると竈門くんはこちらに近づいてくるので、私は急いで拾ったお財布を出して渡す。
「すぐに返したかったんですけど、体育があって…すみません」
「いやいや!なくしたと思ってたんだ!ありがとう!えっと、名前は?」
「苗字名前、です」
そうか!ありがとうという竈門くんに手渡しする。
私はもう一度お辞儀をする。
「渡せてよかったです、では…!」
「あ、ちょっと!」
私はそのままパン屋さんを出る。
また機会があったら買っていこうかな、なんて思いつつ帰路についた。
***
「善逸、あの子は…」
「隣のクラスだよ、俺らとタメで、えっと確か園芸部の子じゃない?いつもお花に水あげてるんだよな1人で」
すらすらと彼女のことを話す善逸に少し引いたものの、そのおかげで彼女のことを知れたのでありがたく思おう。
「明日、名前にパンのおすそ分けをしよう」
そう言えば、善逸は炭治郎らしいな、と笑った。