ボーっとしながら黒板をきれいにしていく私。
今教室にいるのは掃除のために残ってる人たちだけだ。
さっさと終わらせて帰ろう、そんなことを思っていたら先に帰ったはずの友達、渚がすごい勢いで走ってきて私に詰め寄る。
「名前!?校門に彼氏が待ってるんだけど!?」
「ああ、ほんとに来たんだ」
私がそう言うと渚は私をがくがくと揺さぶる。
「彼氏ってどういうこと!?」
私はひとまず落ち着いて、と腕を掴む。
息を一つ吐いてぼそりと呟く私。
「…私の好きな人の弟だよ、彼」
「え、」
渚の顔を見てそりゃ驚くよね、なんて他人事のように思った私。
「私失恋したんだけど、チャンスが欲しいから2週間お試しで付き合って、それでもダメなら諦めるからってさ」
「なにそれ…」
目を見開く渚に少しだけ自傷気味に笑う私。
「…利用してるみたいで嫌なんだけどね、私」
「明日!!詳しく話!聞くから!!」
ハッとしたような渚にそういえば今日は彼氏とデートとか言ってた気がする。
私は少しため息をついて手を振る。
「はいはい」
「早く行ってあげなよ!」
そう言って走って帰って行った渚に少しだけ笑う。
黒板消しを持って窓から叩いていれば、確かに門のところにあの目立つ髪色が見える。
チラチラとみんなが見ているのに、それに気づかずどこかそわそわしてる善逸が面白くて。
ぽふぽふ叩いていればふと、善逸がこっちを見て、目が合った気がした。
「ま、気のせいか」
そう思っていたんだけど。
「名前ー!!」
「ちょ、」
めちゃくちゃでかい声で叫んだ挙句、手をぶんぶんと嬉しそうに振ってくる善逸に慌てる私。
なんだ?とみんなに見られて、私は頭を抱える。
「急ぐか…」
私は急いで黒板消しを叩いてから足りなくなったチョークを補充して、鞄を持つ。
「じゃ、お先に」
恐らくさっきの大声であっけに取られていたクラスメイトにそう声をかけて私は少し速足で歩く。
下駄箱で靴を履き替えてすたすたと善逸に近づけば、善逸はそれはそれは嬉しそうに私を見ている。
「よかったぁ、先に帰ったのかと思った」
「私は全然よくないんだけど、なんで叫んだの」
「ごめん、嬉しくて…思わず…」
私はため息をついて善逸の手を引いた。
「帰るよ」
善逸は私の手を握り返して慌てたように隣を歩く。
「明日も明後日も毎日登下校するから」
「いや、別に…」
「するから!」
「わかったわかった」
なんだかんだ私は昔から善逸に甘い気がしなくもないけど、満足そうに善逸は笑った。
「こうやってさ、少しでもそばにいられると嬉しい」
そう言って笑う善逸に少しだけ胸が痛い。
私は、失恋した傷をこうして誤魔化してるだけなのに。