あんなことがあった次の日の朝。
私はいつもと変わらず登校しているのだけど。
あのあと善逸が部屋に戻ってまた帰ってきたと思ったらこれで温めて、と律義にホットタオル用意してくれたおかげか目は言うほど腫れていなかった。
「…こんなに優しくしてもらっていいのかな」
未だに罪悪感はあるのだけれど。
それでも善逸に、俺にもチャンスをください、なんて言わせてしまったから。
実際のところ善逸のおかげで今失恋の傷が浅いのもあるのかもしれないし。
「名前ー!」
「善逸?」
振り返って見れば、バタバタと後ろから走ってくる善逸。
私は立ち止まって善逸を待つと、善逸がすごい剣幕で私に詰め寄る。
「なんで1人で行くの!?」
「え、いやだって学校違うじゃん」
高校は別の学校に進学した私たち。
もちろん檜岳とも別々なのでこうして朝会うことはあまりないのだけど。
善逸はにこやかに笑って私の隣に立った。
「一緒に行こう」
そう言うと善逸は私の手を繋いで楽しそうに歩く。
何だかこうして学校に行くのも小学生以来かもしれない。
「どうかしたの?」
「善逸とこうして学校まで歩くの、いつ振りだろうね」
私がそう言うと善逸は少し考えて話す。
「中学の時はなんか嫌がられて一緒に帰れなかったからな…」
「思春期って知ってる?そのせいで私善逸と付き合ってるって噂されたんだから」
ため息を吐けば善逸は少しだけ笑う。
「俺はむしろそれを狙ってたんだけどね」
「…全く」
図々しいというかなんというか。
でも善逸だからそんなことを言われても憎めないのも事実で。
「っていうか善逸、委員会はいいの?」
私は1人でいる教室が好きで、毎朝早めに出てボーっとしているだけだけど。
善逸はヘラっと笑って言う。
「送った後に走れば間に合うから大丈夫」
私が息を吐けばそれでもどこか嬉しそうにしている善逸に何も言えなくて。
「帰りも迎えに行くから待ってて」
「別にいいのに」
「俺がそうしたいの!」
先に帰ってしまおうか、なんて思ったけどさすがにそれは可哀想だし、今日は掃除もあるからその間に来るだろう。
私の学校に着いて、善逸は私の手を一度ぎゅっと握ってから手を離した。
「うー…寂しいけど、後で会えるから…」
「何言ってんの」
少しだけ笑って私は手を振る。
「後でね、学校頑張って」
私がそう言うと顔を明るくしてから笑う善逸。
「うん、名前も頑張ってね!」
そう言ってすごい速さで走って行った善逸。
そういえば善逸って昔から足速かったなぁ、なんて思いながら私は少しだけ温もりの残った手を見る。
善逸はいつでも優しい暖かさなんだよな。
私は少しだけ笑ってから校門をくぐった。