結局そのまま私の家に連れてきてくれる善逸。
親もリビングにいたから静かに上がって私を部屋に連れて行ってからゆっくりと降ろしてくれる善逸。
ゆっくりと私が正座すれば私の前に同じように正座をする善逸。
何か言わなきゃ、そう思って善逸に声をかける。

「…あの」
「ごめん、今日兄貴あんなに早く帰ってくること知らなくて」

そう言って頭を下げた善逸に私は驚きながらも善逸を見る。

「あ、いや…」
「…正直、昨日名前のお姉ちゃんに兄貴に彼女がいないこと知って俺は身を引くべきだと思った」
「善逸…」

やっぱり、と私は思った。
善逸は優しいから。
今までだって私が相談しても嫌味1つ言わずに聞いてくれていたのだから。
ぎゅっと拳を握って善逸は俯いたまま話す。

「でも、ごめん。少しでも名前が俺といて幸せそうな音を出してくれてるの聞いてると、どうしても離したくなくて」
「善逸」

言わなくちゃ、ちゃんと私の気持ちを。

「だから俺、」
「善逸、聞いて」

無理やり善逸の言葉を遮れば善逸はゆっくりと私を見る。
私は一度深呼吸をしてから伏し目がちに話す。

「私ね、ずっと檜岳のことが好きだって思ってたしこれはきっと初恋だと思う」
「…うん」

ごめんね、こんなこと言って善逸にそんな傷ついた顔をさせたいわけじゃないのに。
私は少し苦笑しながら善逸を見る。

「…お姉ちゃんにね、言われたの。私善逸といるときのほうが楽しそうなんだって」
「え?」

善逸がきょとんとして、私を見るからなんだかおかしくて。
私は少しだけ笑う。

「私ね、善逸が好きだよ」
「は…」

口を開けたまま固まった善逸に、私は膝の上で拳を作っていた善逸の手の上に手を重ねる。

「ごめんね、きちんと話すべきだったよね。善逸が身を引くべきだって思ってることも気づいてたから」

善逸が前に私のことずっと見てたからわかるって言ってたけど、私も善逸のことをなんとなくわかるのはきっと見ていたからだろう。
善逸は少しだけ顔を赤くしながら私を見る。

「ちょっと待って」
「何?」

少しだけ不安そうな顔をして、善逸はぽつりと呟く。

「名前が、俺のこと…?」
「うん、好きだよ」

私がそう言うと善逸は力が一気に抜けたのか、へなへなと猫背になっていく。

「嘘…」
「なんでこんなときに嘘つかなきゃなんないの」

私は善逸を見ながら笑う。

「…さっきね、檜岳に迫られて善逸のこと思い出しちゃって」
「俺…」

善逸なら優しくしてくれるのに、なんてあんな時でも考えてしまったのだから。

「うん、助けてくれてありがとう」

そう言って笑えば善逸はぐっと唇を噛み締めてから俯く。

「…あの、さ」
「うん」

ちらりと私のほうを見ながら、顔を少し赤くする善逸。

「もし名前が本当に俺のことが好きだって言ってくれるなら、抱きしめてもいいですか…」

そう言う善逸に私は少しだけ笑った。
今まで善逸は絶対に手を繋ぐ以上のことはしなかった。
それはきっと善逸の中で決めていたことなんだろうと、私もあえて踏み込んだりはしなかった。
ゆっくりと私は動いて善逸に体を預ける。

「へ…」
「抱きしめてくれるんじゃないの」

そう言って私は善逸の背中に腕を回す。
善逸の背中はこんなに広かったんだな、なんてのんきなことを考えて。

「ッ、あーもう!」

善逸はガバッと私を抱きしめてくる。
ああ、暖かいなぁ。
少しだけ早い善逸の鼓動に私はゆっくりと目を閉じる。

「…好きだよ、名前」
「私も好きだよ」

ありがとう、ずっと想ってくれて。
ありがとう、私を離さないでいてくれて。
どうか、ずっと君と一緒にいられますように。
心からそう思った。


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