朝、いつもと何も変わらない様子の善逸。
いや、無理をして変わらないように接してくれていた善逸が、私を学校まで送ってから別れ際に家の鍵を差し出してきて私は首を傾げる。
委員会で遅くなるんだけど、会いたいから部屋で待っててほしいと言った善逸に私は頷いてその鍵を受け取った。
久しぶりに一人で帰路について、そのまま善逸の家に上がって善逸の部屋でぼーっと考える私。

「…ちゃんと、伝わるかな」

なんて言えば善逸にこの気持ちがきちんと伝わるのだろうか。
いきなり善逸が好きだよ、なんて言っても善逸はきっと自分に自信がないから私の気持ちが全部伝わらないだろう。

「檜岳じゃなくて善逸が好きだったみたい…っていうのは…」

ドキドキと音を立てる心臓に、深呼吸をする私。
考えながらぶつぶつ呟いていれば突然扉が開いて私は固まる。

「おい」
「へ、」

善逸だと思っていたのにそこには数日間、おそらく善逸が気を使って会わないようにしてくれていた彼の姿があった。

「檜、岳…」
「…チッ」

私が名前を呼べば不機嫌そうに舌打ちをして近づいてくる檜岳。
ぐっと私の腕を掴んでそのまま善逸のベットに押し倒される私。

「ちょ、何す」
「黙ってろ」

檜岳の気持ちがわからなくて。
ぐっと掴まれた腕がとにかく痛い。

「いたッ、待って、檜岳…!」

善逸ならこんなに無理やりしたりしないのに、なんて今考えても仕方ないことを思う。
私を見下ろしながら睨む檜岳に私は怖くなってポロポロと涙が溢れる。
そんな私を見て檜岳はぽつりと呟いた。

「…お前は俺が好きなんじゃなかったのかよ」

その言葉に目を見開く私。

「何言って…」
「チッ」

舌打ちをしてから檜岳は私の腕を頭上で一纏めにして押さえつけてくる。

「檜岳、やめッ!」
「黙れ」

じたばたと暴れる私にさらにいら立つ様子の檜岳。
私はただ善逸に伝えたいことがあったからここにいただけなのに。

「嫌ッ…!」

近づいてくる檜岳に私は拒否をすれば、檜岳は私を見下ろしてから私の制服に手をかける。
善逸の部屋で、なんで善逸以外に私は迫られているんだろう。

「善逸…!」

怖くて、でも助けてほしくて。
絞り出すように発したその声は思ったよりも大きい声だった。
開いたままだった扉からバタバタと焦ったような足音が聞こえる。

「何してんだよクソ兄貴ッ!」
「ッ!てめぇ…」

檜岳を突き飛ばして、私を守るように背に庇った善逸。

「善、逸…」

突き飛ばされた檜岳は善逸を睨んでいて、いつもならひるむ善逸がグッと拳を握った。

「俺は!名前を泣かせるためにお前に託そうとしたんじゃないんだよ!」

そう言って私のほうを見る善逸。

「ごめんよ」

ふっと突然抱き上げられて善逸は立ち上がる。

「名前を幸せにできないならお前には渡さない」
「ちょ、善逸…!」
「しっかり掴まってて」

そう言って善逸は私を抱えたまま家を飛び出した。


BACK
TOP
×
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -