ケーキをお腹いっぱい食べて。
帰りに少しだけお買い物してから帰路に着く私たち。
お互いの家の前に着いて善逸にまた明日、と声を掛ければ善逸が少しだけ私の腕を掴む。

「善逸?」
「…あの、今日うち誰もいなくて」
「うん?」

もごもごと話す善逸に私は首を傾げる。
おじいさんと檜岳は一緒に出掛けたということだろうか。
善逸はどこか緊張したような顔で私を見る。

「少しだけ、寄って行かない?」

そう言った善逸に少し考えてから私は笑う。
今日はお姉ちゃんがいるから晩ご飯にまでに帰ってこなくて、こっちの家の電気がついてたら突撃してきそうだなと私は思った。

「遅くなるとお姉ちゃんこっちに来るからね」
「え」

善逸が私のお姉ちゃんが苦手なことを知っていて言うから私も少し意地悪だなぁ、なんて思いつつ。
善逸はゆっくりと私を引いて家に入る。

「お邪魔します」
「うん、お茶持っていくから部屋にいて」

何度も来たことがあるから自分の家のように私は善逸の部屋に行く。
未だに置いてある勉強机は少し散らかってたけど、まぁまぁ整頓されていた。
適当に座ろうかと思っていたのだけど、ふと机の上にある紙に気づいて私は見る。

「デートに連れていきたいところ…?」
「うわあああああああああ!?待って待って!」

ちょうどお茶を持ってきた善逸が、急いで机にお茶を置いてからがばっと紙を隠す。
そんな善逸を私はじっと見つめる。

「……」
「無言やめてくれない!?」

あーもう!なんて言いながらもその紙を律義に机の引き出しにしまう善逸。
私は少しだけ笑いながら善逸を見る。

「いや、善逸がそこまで頑張って考えてたなんて知らなくて」

私がベットに持たれるように床に座れば、善逸は少しだけ息を吐いて、私の隣に座る。

「…そりゃ、2週間しかないんだから」
「うん」

そう呟いた善逸に相槌しか打たないのだから私は本当にずるい女だなと思った。

「その間に名前に好きになってもらわないと」
「…そうだね」

もうすでに心は決まっているのだけれど。
そう思いながら私はゆっくり善逸の肩に頭を預ける。

「名前?」
「何?」

少しだけ慌てたように私を見る善逸に私は気にせず目を瞑る。

「え、いや…俺が何って聞きたいんだけど…」
「今は恋人なんでしょ」
「で、でも…」

恐らく善逸は仮なのにって言いたいんだろうけど。

「じゃあ手を繋ぐのも今後なしじゃない?」
「いや、それはその」

そこでどもるんだ、なんて少しだけ面白くて笑ってしまう私。

「少しだけ、こうしたい気分なの」

私のその言葉に善逸は何も言わずに固まった。
どうしても檜岳が好きだったと思っていた自分の心の整理がまだ足りなくて。
もう少しだけ、時間をちょうだいと心の中で思った。


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