玄関を出れば私を見てぴしっと固まった善逸。
なんとなく、先ほどのお姉ちゃんとの会話が頭から離れなくて鼓動が早いのだけども。

「お、おはよう善逸」

声をかけても私を見て固まっているから私は苦笑しながら善逸にもう一度声をかける。

「えっと…お姉ちゃんがやってくれて…変かな…」

セットしてもらった前髪を少しだけ触りながらそう言うと善逸はハッとしたように声を上げる。

「ぜ、全然変じゃないよ!すごく可愛い!」
「ありがと」

なんだか善逸も緊張しているのか全然目が合わないのだけど。
でもきっと善逸の言葉は嘘じゃないだろう。
嬉しい気持ちとお姉ちゃんにありがとうの気持ちでいっぱいになった私。

「…行こっか」

慣れたように私の手を優しく取って歩く善逸。
ここ数日、当たり前のように手を繋いでいたのに、なんだか少し気恥ずかしくて。
善逸にバレないように私は深呼吸をする。
駅に着いてホームで待ちながら善逸はルンルン気分で電車を待つ。

「今日行くとこね、ずっと名前と行きたいって思ってたんだ」
「そっか」

善逸がそう言ってくれるならきっといいとこだろう。
ちょうど来たなかなかに混雑している電車に乗る。
きっと気を使ってくれているのだろう、私を後ろに人のいないドア付近に立たせてくれる善逸。
そんな善逸はじっと私を見る。

「ねぇ、なんかあった?」
「へ?」
「いつもとなんか違うから」

なにか、とは。
善逸は些細なことでも敏感だからきっと私が善逸に対して意識して、それを隠そうとしてることに気付いているのだろう。
私は2週間経てばどのみちきっとこれからの話をするから、その時に気持ちを伝えようと思っていたし、今はまだ心の準備と整理がついていないから首をかしげて笑う。

「何が…?」

私の言葉に善逸は少し考える。

「何がって言われると…答えられないんだけど…」
「何それ」

私は逃げているんだろうってこともわかっているけど、もう少しだけ伝える時間が欲しい。
そんなことを思っていたらカーブに差し掛かったのか電車がぐらりと揺れる。

「わっ」

私の声とともに善逸が私の体をとっさに支えてくれる。

「っと、大丈夫?」
「あ、うん。ごめん」

おそらく善逸の後ろの人が善逸を押したのだろう。
善逸は私の顔の横に手を置いていて、1人でこれが噂の壁ドンなんて思っていた。

「満員電車だから仕方ないよね」
「……」

そう言った善逸の顔がいつもよりも近くて。
私を支えてくれた腕も、今顔の横にある手も、なんとなくわかっていたけど善逸は男なんだなと改めて思った。

「だからこの体勢も仕方ないってわかってほしいんだけど」

苦笑しながら私を見る善逸に私は口を開く。

「いや、分かってるよ」
「分かってるって顔じゃないんだけど!?」

果たして私はどんな顔をしているんだろうか。
多分恥ずかしさをごまかすために怪訝そうな顔をしてるんだろうなと思いながらも私は息を吐いた。

「…なんか善逸が思ったよりも男だったんだなって少し思っただけ」
「え」

私の言葉に少しだけ顔を赤くして固まる善逸。

「なんで赤くなるの」
「いや…」
「何」

口ごもる善逸に聞き返せば少し照れながら笑う善逸。

「意識してもらえたのかなって」
「は…」

確かに。
それだけ聞けばそう聞こえてしまう気がする。

「ち、違…!深い意味はないよ!?」

私が慌ててそういえば善逸は少しだけにやにやと笑う。

「ふーん」
「…何」

私を見ながらどこかご機嫌そうな善逸。

「そういうことにしとく」
「善逸のくせに生意気」

私がそういうと善逸ははにかんだ。

「ごめんってそんな怒らないでよ。嬉しかったんだもん」

ため息をつけば、気にしていないのか嬉しそうに笑う善逸。
次の駅で降りるよ、と声をかけてくれる善逸に私は静かに頷いた。


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