電話が鳴って、私はスマホを取る。
画面をタップしてスマホに耳を当てると、善逸の声が頭に響く。
「名前起きてる!?」
「うるっさ…今起きた…」
私がそう言うと善逸は電話口でもわかるくらいそわそわしていたらしく、もう少し早く起きればよかったなと後悔する。
「急いで支度するから待ってて、30分くらい」
「30分経ったら迎えに行くね」
急がなければと私はバタバタと服を着替えて洗面所に向かう。
「おはよう、今日も気合入ってるってことは善逸くんとお出かけ?」
「…なんでいるの」
リビングの前を通ればソファーで寝転びながら私をじっと見るお姉ちゃんがいた。
お姉ちゃんは普段夜勤が多いからこの時間は寝てるはずなのに。
「今日は休みだからね、髪の毛少しいじってあげようか」
「いや、別に…」
そう言ってアイロンをすでに用意しながら言ってくれるお姉ちゃんに私は苦笑する。
とりあえず顔を洗って歯を磨く私。
そのままメイク道具を取りに行こうとすればお姉ちゃんがさっとメイク道具を出してニッと笑う。
「デートでしょ!?任せて!」
なぜか私より気合が入っているお姉ちゃんにたじろぎながらもまぁしてくれるならと大人しく座る私。
美容師になりたいらしいお姉ちゃんは今学校に通いながらバイトをしているのだけど、たまにこうして私を練習台にしていたから慣れた手つきで私の顔をきれいにしてくれる。
わたしがやるよりも当たり前に上手なお姉ちゃんに感謝しつつ、髪の毛をきれいにセットしてくれているお姉ちゃんに私は声をかける。
「…ねぇお姉ちゃん」
「ん?」
突然まじめな声のトーンでお姉ちゃんを呼んでしまったからか、手を止めたお姉ちゃんと鏡越しに目が合う。
「…私、善逸のこと好きなのかな」
私がぽつりとそう呟くとお姉ちゃんはきょとんとしてから大きい声で笑った。
「あははは!」
「ちょ、本気で聞いてるんだけど!?」
私がそう言うと、ごめんごめんと言いながら髪のセットを再開するお姉ちゃん。
「あんたずっと檜岳が好きって言ってたけど、ようやく自覚したの?」
「え?」
私がそう言うとお姉ちゃんはやっぱり、なんて言って笑う。
「見てれば分かるよ、善逸くんといるときのほうがずっと楽しそうだよ」
お姉ちゃんはそう言って微笑む。
第三者の意見というのはこんなにもスッと入っていくのかと、私は思う。
ずっと、檜岳のことが好きだと思っていたのに。
ああ、そうか、私は善逸が好きなんだって自覚すればするほど心臓がバクバクと音を立てる。
「お姉ちゃん、私善逸が好きだ…」
「知ってるよ」
私の言葉にお姉ちゃんは笑う。
ぎゅっと拳を握れば、お姉ちゃんが私の背中を優しく押す。
ピンポンと本当に30分で来た善逸に驚きながらもお姉ちゃんは笑う。
「ほら、善逸くん来たよ」
「うん」
立ち上がってお姉ちゃんの方を見れば、頷いて親指を立ててくる。
「ガツンと落としてきな!」
「ち、違うから!」
ウインクするお姉ちゃんにそう言って私はバタバタと家を出た。