本当に来てしまった。
目の前で鍵を開けてくれる名前に俺はバレないように深呼吸をする。
「お、お邪魔します…」
ゆっくりと玄関に入っていく俺。
そんな俺にどうぞと笑いながら俺を見る名前。
「すごい緊張してない?ゆっくりしていっていいよ」
「いや、なんていうか…女の子の家って初めてで…」
少し笑いながらヒーターを付けて上着を脱ぐ名前に俺も上着を脱いだ。
貸してと言われて上着を渡せば丁寧にハンガーにかけながら適当に座ってと言う名前に、俺はゆっくりとソファーに座る。
俺の言葉を聞いて少し考えてからこっちを見る名前。
「竈門くんと仲良くなかったっけ?家に行ったりしてないの?」
「え?何で知って…」
名前は俺の名前も知ってたし、意外とクラスメイトの人のことは覚えているのかもしれない。
そんなことを思っていたら名前はくすっと笑って話す。
「竈門くんはいい人だよね、あんなに冷たくあしらっても話しかけてくれたりするし」
「そうなの?」
炭治郎が名前に話しかけてること自体を知らなかったのだけど、炭治郎が下心で名前と話していたとは思えない。
炭治郎だしな…。
「席隣だからね、大体がお節介なアレだけど…」
ため息をつきながらそう言った名前に俺は苦笑する。
多分友達くらい〜とか言ってたんだろうな、なんて簡単に予想できてしまうくらいには炭治郎はお節介だと思う。
「お節介なことがなければ竈門くんに恋してたくらいには困ってる時も話しかけてくれるよ」
「ふーん…」
竈門くんから俺の事も聞いたんだと教えてくれて、たまたま俺は炭治郎のおかげで名前に覚えていてもらっていたらしい。
そこだけは感謝したいけど、炭治郎に恋してたかもしれないと聞いてしまえば少なからずモヤモヤとした何かが沸いてくる。
そんな俺を見て少しだけ笑う名前。
「やきもち?」
「ち、違うけど!?」
くすっと笑いながら俺に近づいてきて微笑む名前。
「大丈夫、私は今善逸に恋をしてるから」
「あ、のさぁ!?」
初めて名前呼んだのがそのセリフって。
バクバクと音を立てる心臓と、赤くなる顔。
名前はいたずらっぽく笑う。
「ふふっ、ドキッとした?」
したけどさ!
俺はグッと息を詰まらせる。
「ご飯作って来るから待ってて」
そう言って名前は台所に立つ。
ワンルームのアパートだからそこまで広くなくて、ソファーに座ってても名前が見えた。
何となく、作っているところを見ていると2人で暮らしてるみたいでドキドキしてしまったから、頭を振ってきょろきょろと部屋を見回す。
テレビの下にはいくつかゲーム機があって、俺は名前に話しかける。
「…名前もゲームとかするんだね」
その質問に包丁で具材を切りながら答えてくれる名前。
「ああ、たまにね。イカのやつとか配管工のおじさんのカートとかスライムみたいなの消すやつとか」
「いや言い方」
わかるけどさ。
名前はちらりとこちらを見て笑う。
「後で遊ぶ?」
切った野菜を鍋に入れながら名前こっちを見るに俺はすこしだけ笑う。
「俺もまぁまぁ強いよ」
「ぼっちのゲーム好き舐めてると痛い目見るよ」
急いで作らなきゃ、なんて名前はさっきよりもてきぱきと料理を作り始めた。