新作のそれを飲みながら満足そうに歩いている名前。
店員さんに対してめちゃくちゃ無表情だったのに、店を出てから新作を眺めてきらきらと目を輝かせていた。
俺は静かに可愛いなって見ていたんだけど。
「…名前って、すごい表情豊かなんだね」
俺がそう言うと名前は少し笑う。
「あー、そうだねぇ…」
「学校だとあんな無表情なのに」
俺の言葉に名前は苦笑してからぽつりと話し出す。
「…私、親同士が仲悪くて離婚してるんだけど、色々子供なりに仲良くしてほしくってやったんだ」
名前から悲しい音が聞こえて、俺は聞いてはいけないことを聞いた気がして。
「そしたら、うるさいって怒られちゃって。それからなるべく静かでいようって決めたの」
そう寂しそうに笑った名前に、俺はゆっくりと名前の手を握る。
名前は少しだけびっくりしたようにこっちを見る。
「辛いこと話させてごめん」
そう言うと名前はきょとんとしてから俺の手を握り返す。
「ううん、久しぶりにありのままの自分でいられてすごく楽しいよ、私」
先ほどの悲しい音は聞こえなくなって、本当に楽しそうな音が聞こえてホッとする俺。
飲み終えたのか、ゴミ箱に入れてから俺を見る名前。
「今は仕送りしてもらいながら一人暮らししててね」
「すごいね」
この歳ですでに親元から離れてるんだ、なんて驚いたけど名前はくすくすと笑う。
「全然すごくなんかないよ、ただ親から離れたかっただけだもん」
そう言って名前はこぶしを作って俺を見て笑った。
「早く仕送り無しでも暮らせるように頑張りたいんだ」
こんなに頑張っている彼女を見て、俺にもなんかできないかなと少しだけいらないお節介欲が沸き上がってくる。
名前は、あ、なんて声を上げて俺をじっと見る。
「良かったらこの後家来る?ご飯くらいならごちそうするよ」
「いやいやいや!?」
ちゃんと話したの今日が初めての男を1人暮らしの家に誘わないで!?
そんな俺の心の声が顔にも出ていたのか名前はくすくすと笑う。
「別に襲ったりなんかしないし大丈夫だよ」
「襲っ!?」
何を言っているのかこの子は、そう思っていたら名前がそっと腕を自分の前でクロスして俺と距離を取った。
「あ、もしかして私が襲われる側?」
「襲わないけど!?」
俺は紳士ですが!?なんて思っていたら吹き出すように笑う名前。
「ふふっ、一通り服買いに行ったらスーパー寄ってから私の家ね」
次行こ!と言ってぐいぐい俺を引っ張る名前。
「いや、行くって言ってな…」
そこまで言って、名前が首を傾げながら楽しそうにこっちを見るから息を吐いた。
「…まぁいっか」
別に何もやましいことはないし、家に遊びに行くだけなのだから。