ここは俺が通っている高校。
ここの高校はやたらと顔面偏差値が高い。
廊下で会話しているのはお互いが美男美女と噂され、この高校では知らない人はいないレベルの2人だ。
「ねぇ、よかったら」
「結構です」
バッサリと切り捨てて、教室に入ってくるその女の子はどんな男でも塩対応と有名で、それはたとえ高校一のイケメンでも適応内だったらしい。
男の方は固まって動かなくなってしまっていた。
俺はその様子を見ていたクラスメイト2人と話す。
「…苗字さんすごいよね、イケメンでもああなんだから」
俺がそう言うと、苗字さんを見たまま俺に会話を振ってくる。
「我妻、苗字さんどう思う」
「絶対スタイルいい」
「分かる」
いつもセーターを着ているからあれだけど、体育の時のブルマ姿、めちゃくちゃスタイルいいんだよな。
「ていうかあの塩対応いいよな…」
「彼氏にだけ甘えてたりして」
「なにそれ超かわいすぎない」
そんなどうでもいい野郎の妄想を話しながら1人がため息をつく。
「あいつで無理なら俺らなんかほんとに雲の上の存在だよな」
あいつ、とは。
まぁ苗字さんにばっさり切り捨てられて固まっているあのイケメンのことだ。
苦笑いをしてからもう一度ため息をつく。
「なー。まぁ美人は見てるだけで癒されるけど…」
「分かる」
美人というのは多分マイナスイオンか何かを放っていると思う。
というか俺はそう信じている。
「見守り隊結成だな」
そう呟かれた言葉に俺は少しだけ笑う。
「それ遠回しに近づくなってやつじゃん」
俺の言葉にジト目でこっちを見てくる。
「そもそも近づけねぇだろ」
確かに。
話したこともなければ目を合わせたこともなかった。
「はー一度でいいから笑った顔とか見てみたいよな」
ぼんやりと苗字さんを見つめながらため息をついていて、俺はちらりと苗字さんを見る。
一度だけ、たまたま委員会が遅くなった帰りに渡り廊下を歩いていたら中庭の隅っこで苗字さんを見かけたことがあった。
彼女は中庭に住み着いていた子猫とじゃれながらいつもよりも柔らかく笑っていて、俺は初めて見たその姿に一瞬で恋に落ちたのだけれど。
「美人だから絶対可愛いと思うんだけど」
そんなことを考えている俺のことも知らず。
にやにやとしている野郎に、俺もこのうちの1人か、なんて少しだけ虚しくなった。
「ま、静かに見守ろうぜ」
その言葉にそうだな、なんて返して俺は次の授業の準備をするのだった。