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引継ぎ審神者はブチ切れた









その審神者は人付き合いが苦手である。


先日の鬼ごっこで懐かれたとはいえ、この事は変わらない。

いくら向こうから来られても、彼女の話す姿は相変わらずたどたどしい。


その事に苛立つ者もいるが、お互いに避けていた以前よりは良くなっている。


彼女にとっての初期刀明石に、同じ来派の愛染と蛍丸。

文通もどきをしている三日月。

最近では家事の事で燭台切や堀川とも話すようになった。








そんなある日、


「演練、ですか?」


政府から「いい加減演練に出ろ」と命令が来た。


「………」


審神者は困った。


演練は良い。

刀剣達の経験値も上がる。

問題は、たくさんの人(刀剣含む)がいるという事。


しかし、いい加減行かなければいろいろと面倒だ。


「どないします?」


「………行かなきゃ……だよね」


明石が問えば、審神者はものすごく嫌そうに答えた。








「…………」


大広間。




スッと掲げられたスケッチブックには演練に出るメンバーの名前が書かれていた。


錬度を上げねばと入れられた明石。

愛染国俊、蛍丸、三日月宗近、燭台切光忠、堀川国広。

と、審神者にとって比較的話しやすい者たちが選ばれた。


まずは慣れる事が大事だろうと思ったのか、反論する者はいない。


しょげてる者はいるが。


「国広は良くて俺は駄目なのかよぉ……」


和泉守は堀川とはいつも一緒にいるためか、置いて行かれる事に落ち込んでいる。


「兼さん、ぐいぐい行くからだめなんだよ。主さんは話すの苦手なんだから」


そんな彼をなだめる堀川。


「でも、打刀がいないと二刀開眼出来ませんよ」


こんのすけの言葉に和泉守は顔を上げた。


「でも、静かそうなのいないもんね」


しかし、蛍丸の追撃に再びしょげた。




この本丸には、打刀は山姥切国広と鳴狐、長曾根虎徹がいない。

前任の初期刀である山姥切は前任の采配ミスにて折れ、鳴狐は検非違使との戦いによって折れた。


悲しみのあまり、前任は鍛刀やドロップで彼らを手に入れても顕現せずに連結や刀解しており、二振目はいない。

長曾根はまだ手に入っていないだけ。




ちなみに大倶利伽羅だが、「自分より光忠が行った方が落ち着けるだろう」と自ら留守番を決めた。




「とりあえず、まずは慣れだ。行っておいでよ」


「次は連れてってね」


しょげる和泉守の背を撫でながら、加州清光と大和守安定は言い、他の者達と共に演練組を見送った。
















演練会場。




「はー……ぎょーさん、居りますなぁ……」


「主、大丈夫?」


「…………」


無言で差し出されたメモ帳には震えた文字で『帰りたい』と書かれていた。


「早いな!」


「今来たばかりだよ主!」


すかさずツッコミを入れる愛染と燭台切。








そうこうしていても順番はくるもので。


「さて、主どうする?」


相手は山姥切国広、小狐丸、鶯丸、一期一振、江雪左文字、鶴丸国永。

相手の男審神者はニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。


「うわー、兄弟以外見事にレアばかりですね。兄弟は初期刀なのかな……」


問う三日月に、苦笑を浮かべる堀川。


「……さっき……あの人達の戦い、見てたけど………」


メモ帳にペンを走らせ、図を書き始めた。


「これで…お願い、します…」


審神者の言葉に、皆は頷き歩き出す。


「………が、頑張って……」


小さく呟かれた声に一瞬歩みが止まるが、再び歩き出す。

それぞれの口角は上がっていた。


















結果、錬度の低い明石が初っ端から重傷にされたが、なんとか勝てた。


「この役立たず共が!」


皆で喜んでいた矢先、相手側から怒号が飛んできた。


「?!」


相手側を振り向くと、山姥切が頬を打たれていた。


「全く、やはり大太刀を連れてくるべきだったな………錬度が高くても所詮は打刀だ。役に立たん」


「ちょと、何あれ」


男審神者の物言いと、兄弟刀への暴力に、堀川は怒りを露わにする。


見ていて良いものとはとても言えない。

皆が顔をしかめた。




「…………」


「何を見ている!」


視線に気付いたのか、男審神者の怒りがこちらに向いた。


「!」


審神者は肩を跳ね上げる。


「そもそも、何なんだ。小娘のくせに三日月に明石だと?!」


怒鳴り散らしながらこちらに近付いてくる男審神者。


「お前には勿体ない!俺に寄越せ!」


「何言っ――――」


兄弟刀への仕打ちだけでなく、こちらの刀剣を寄越せと言う男審神者に反論しようとした堀川だが、それより早く審神者が動いた。




審神者は切れていた。




近付いてくる男審神者にこちらも近付いていき、そのまま彼の足を蹴った。


「なっ――――」


そして、態勢を崩した男審神者の頭を掴み、床に叩きつけた。







脳震盪を起こし倒れている男審神者を静かに見つめ、ゆっくりと立ち上がった。


「…………」


いつかの獣のような目で彼を見つめる審神者に、周囲の者は息を飲む。


「………あんた、」


声をかけられ、はっとして振り返る審神者は、いつものおどおどした表情に戻っていた。


「主が、すまなかった」


話しかけてきたのは山姥切。


「こんな事、思ってはいけないのかもしれないが…………あんたのお陰で、少しすっきりした。誰も、主には何も言えなかったから……」


頭を下げると山姥切は男審神者を担ぎ、他メンバーと共に演練場を去っていった。


「主さん!」


「主も怒るんだね」


走り寄る堀川に、苦笑を浮かべる燭台切。


「………あんな奴に、渡してたまるか、と……」


「はっはっはっ!うんうん、嬉しいぞ」


恥ずかしそうにぼそぼそと言う審神者の頭を、三日月は撫でまわした。
















「主さま」


数日後、こんのすけが皆を大広間に集めた。


「数日前に主さまが倒された男性の審神者を覚えていますか?」


「う、うん」


自分のやった事を思い出し、気まずそうに審神者は答えた。


「あの後、彼の本丸に監査が入りまして、ブラックと判断されました」


「え?じゃあ、あの審神者は…」


山姥切が気になるのか、堀川は身を乗り出す。


「審神者は権利を剥奪され、刀剣様達はほとんどの方が刀解を望み、その通りに」


「そんな…」


「ただ、山姥切国広様だけが残られました」


「兄弟が?」


「はい。それが……せっかく助けられたのだから役に立ちたいとおっしゃられて」


「そうなんだ」


こんのすけの言葉にころころと表情を変える堀川。


「それで、ですね………山姥切様が、ここに来たいと」


「はい?」


間抜けな声を発したのは堀川でなく、審神者だった。





 







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