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刀剣男士は気付かない










その審神者は人付き合いが苦手である。


刀剣男士達とのコミュニケーションを諦めた結果、今日も一人で戦場へ行こうとしていた。


ゲートを操作しながら今日はどうしようと考えていると、


「今日も一人で行くの?」


「ファッ?!」


奇声を上げた。
















最初に気付いたのは蛍丸だった。




その審神者は誰とも目を合わそうとせず、いつもやや下方向に目線を向けている。


他の刀剣男士は前任との別れを悲しむばかりで、審神者に目を向けない。

審神者の目線に気付いたのは蛍丸だけだった。




そんな審神者が気になり、様子を見ていた蛍丸。

会えば挨拶をしていた審神者だが、やはり誰とも目線を合わせない。

刀剣男士が審神者を見ようとしてないのもそうだが、審神者自身も相手の目を見ようとはしていなかった。




仲良くする気がないのだろうか?




とも、思った。


しかし、それなら挨拶をしなければいい。

無視をすれば自然と嫌われるだろう。




では、何故?











蛍丸は、最後にこの本丸に来た。

故に、前任との思い出は少ない。

だからと言って、全く悲しくないわけではないが。


前任との別れを悲しむよりも、審神者の事が気になった。












そんなある日、審神者をゲート前で見付けた。

何やら悩んでいるようだった。


しばらく悩んだ後、意を決したように前を向き、ゲートに飛び込んで行った。


「え?」


慌ててゲート前へ移動する。




行先は厚樫山。




「嘘…」


人間が戦場に行くなど考えられない。


蛍丸は茫然と審神者が消えたゲートを見つめていた。
















次に気付いたのは愛染国俊だった。




いつもぼうっとゲートを見つめる蛍丸が気になった。


蛍丸はいつも出ていく審神者を目で追い、戻って来た姿にほっとしているようだった。






「蛍はあの審神者が気になるのか?」


しばらく経ってから、思い切って聞いてみた。


「うん。なんで一人で行くのかなって」


「そうだな。戦うのは俺達の仕事なのに」


うーんと二人で考える。

しかし、答えが出るはずもない。

挨拶しかした事ないのだから。


しかも、一度たりとも目線は合っていない。




「よし!話しかけてみようぜ!」


二人は翌日、審神者に話しかけてみる事にした。
















そして、冒頭に戻る。


「え……あ……」


審神者は戸惑っていた。


まさか話しかけられるとは思っていなかった。


「聞いてる?」


「あ、は…い…」


相変わらず目線は合わない。


きょろきょろと視線を彷徨わせる彼女に、二人は戸惑う。




審神者は短刀が苦手だった。


幼い故に、まっすぐで正直。


五虎退には泣かれ、乱藤四郎には睨まれた。

その他の短刀にも敵意剥き出しな目を向けられた。


まぁ、蛍丸は大太刀だが。






そんなわけで、刀剣男士の中でも見た目が子供な二人は苦手。


しかし、無視するわけにもいかない。


どうしよう……と考えを巡らせていると、


「俺達もついてっていい?」


「へぁっ?!」


またもや上がる奇声。


「だめ?」


首を傾げる蛍丸。


「さっさと行こうぜ!」


しびれを切らしたのか、審神者の手を取り、ずんずんとゲートに進んでいく愛染。


「ちょっ……えっ?」


「よーし!行きますかっとお!」


反対側の手を取り、蛍丸も歩き出す。


さすが刀剣男士。

手を引く力は強かった。
















「あれ?蛍丸君と愛染君は?」


おやつのプリンを食卓に並べながら、燭台切光忠は問うた。


「そういえば、見ねぇな」


燭台切と共にプリンを並べていた薬研藤四郎も首を傾げる。


「まぁ、あいつらもいろいろあるだろうしな……そっとしといてやろうぜ」


今は皆、前任が去った事で落ち込んでいる。

そっとしておこう。


「そうだね」


悲しげな笑みを浮かべながら、燭台切は二つのプリンを冷蔵庫にしまった。
















「すっげー!主強いんだな!」


「あ、ど……どうも……」


来派の二人を無理やり戻す事も出来ず、厚樫山を進んでいった。

ボスを倒した頃には、すっかり審神者に懐いていた。


イエーイとハイタッチをしながらはしゃぐ二人に、審神者も少しだけ慣れたようだった。

目線は合わないままだが、視線は彼らに向けていた。


「ほら、主も!」


「え?」


両手を上げたままの二人に、そっと手を合わせる。


「これからもついて行くからな!」


「う、うん…」


ダメとは言えなかった。
















「あれ?まだ食べてない」


夕方になり、減っていないプリンに眉を下げる燭台切。


「ほうっておけばそのうち喰うだろ」


そっけなく言い放つのは和泉守兼定。


「そうさな、放っておくがよい」


言いながら、優雅に茶を飲むのは三日月宗近。


刀剣男士は気付かない。


審神者が毎日戦場にいる事を。


来派の二人は審神者を認めた事を。


いや、気付かないふりをしているのか……。


三日月だけは、ゲートのある方角に目線を向けていた。












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